同じことを考え続けるのをやめられない

こんな症状はありませんか?

「なぜあんなことを言ってしまったのだろうか……。」

「あの時、もっとこうしておけばよかった……。」

気付けば何度も同じ言葉や場面が頭の中で繰り返されている――そんな経験がある方も多いのではないでしょうか?

自分の考えや行動を振り返り、見つめ直すことは、自己成長につながる大切なステップの一つです。しかし、考えることが習慣化して長時間続いてしまったり、思考の内容がネガティブなものに偏りすぎてしまったりすると、気分の落ち込みや疲労感、不眠などの問題を引き起こすことがあるため注意が必要です。

同じ思考をぐるぐると繰り返し考え続け、自分の意思では止められなくなる状態(思考のループ)を、心理学では「反すう思考(はんすうしこう)」と呼びます。反すう思考は、心の不調との関連が深く、不安や憂うつな気分を増幅し、うつ病や不安障害といった心の病気の原因になることが知られています。

もし、過去の出来事などをくよくよ考え続けてしまい、心の疲れを感じていたり、日常生活に支障を生じたりしている場合には、放置せずに早期にご相談ください。

よくある症状セルフチェック

以下のような症状が続く場合は、反すう思考に陥っている可能性があります。

放置していると心身の不調を引き起こす可能性があるため、早期に対策を行いましょう。

  • 日中の些細な出来事が気になってしまう
  • まだ起こっていないことを想像して不安になる
  • 過去の失敗や嫌な出来事が忘れられない
  • 寝ようとして布団に入ると、考えごとが止まらなくなる
  • 考えごとを始めると、他のことが手につかない
  • 考えすぎで疲れてしまい、心が擦り減っていると感じる

同じことを考え続けてしまう主な原因

考えても仕方がないと分かっているのに、ぐるぐると同じ思考を続けてしまう背景には、以下のような心理的・環境的な要因が関係しています。

不安傾向が強い

不安を感じやすい性格や思考のクセがある方は些細なことを過度に気にしてしまい、ちょっとしたことでも「失敗したらどうしよう」と悪い結果を想像しやすい傾向があります。他人の感情や環境の変化にも敏感なため、ネガティブな考えが頭から離れにくくなり、同じ思考を繰り返すループに陥りやすくなります。

完璧主義

完璧にやろうとする気持ちが強い方は、過度に失敗を恐れ、物事をネガティブに捉える傾向があります。ちょっとした失敗でも「自分が悪かった」と必要以上に自分を責めてしまったり、「もっとこうすればよかった」「あんなことをしなければよかった」と考え続けたりして、気付かないうちに思考のループに陥っていることがあります。

ストレスや疲労の蓄積

強いストレスは、脳のエネルギーを消耗させ、反すう思考を誘発しやすくなります。

また、睡眠不足や疲労が蓄積すると、脳の機能が低下して思考のコントロールが難しくなります。その結果、物事を前向きに捉えにくくなり、思考の切り替えが難しくなります。

過去のつらい経験やトラウマ

現在起きている出来事が、過去のつらい経験やトラウマと重なり、無意識のうちに当時の感情や記憶が呼び起こされてしまうことがあります。その結果、頭の中で過去の出来事と同じ考えやイメージが繰り返され、思考のループに陥りやすくなります。

「考えすぎ」が心身に及ぼす影響

反すう思考はただの「考えすぎ」ではありません。

多くの場合は、時間を費やしても答えが出ないだけでなく、否定的な考えに陥りやすいという傾向があり、心や体に以下のようなさまざまな悪影響を及ぼすことがあります。

気分の落ち込み

ネガティブな感情が増幅し、憂うつや不安感が高まります。また、必要以上に自分を責め、自己肯定感が低くなります。心に余裕がなくなることで、感情が過敏になり、些細なことでも落ち込んだり、イライラしやすくなったりすることがあります。

意欲の低下

思考が堂々巡りすることで行動を起こす意欲が低下し、何事に対してもやる気が起きにくくなります。周囲とのコミュニケーションも負担と感じて、人との関わりを避けるようになることもあります。

集中力の低下

思考が休む間もなく続いていることで、脳の疲労を招き、思考力や集中力が低下する「ブレインフォグ」状態に陥りやすくなります。その結果、本来やらなければならない目の前の課題や仕事が手につかず、会話や人とのやり取りに集中できなくなることがあります。

睡眠の質の低下

布団に入っても思考が止められず、目が冴えて、寝付けなくなります。また、夜中にたびたび目が覚めたり、起床予定よりもかなり早い時間に目が覚めてしまったりするケースもあります。その結果、質の良い睡眠がとれなくなり、日中に眠気が残り、仕事や勉強のパフォーマンスが低下します。

身体的な不調

慢性的なストレス状態が続くことで自律神経が乱れやすくなります。その結果、身体的なストレス反応として、頭痛、胃痛、肩こり、消化不良など、さまざまな症状が現れることもあります。

「考えすぎ」に関連する心の病気

「反すう思考」そのものは病気ではありませんが、心の不調と深く関係することが知られています。

以下のような心の病気は反すう思考を伴うことが多く、また反すう思考がこれらの病気を悪化させることもあります。

うつ病

気持ちの落ち込み、集中力や意欲の低下が続き、仕事や学業、家事など日常生活に支障をきたす病気です。過去の出来事を繰り返し後悔して自己否定に陥りやすくなり、「自分はダメな人間だ」「あの時、こうすれば……」といったネガティブな考えが頭から離れなくなります。考えれば考えるほど気分が落ち込み、抜け出せなくなる悪循環に陥ります。

不安障害

強い不安や緊張が続き、日常生活に支障をきたす状態です。

「もし何かが起きたらどうしよう」「失敗したら取り返しがつかない」といったまだ起きていない未来のことが過度に心配になり、頭の中で最悪の結果を想像してしまう傾向があります。

適応障害

環境の変化や強いストレスの出来事にうまく対応できず、気分の落ち込みや不安、不眠などが続く状態です。「どうしよう」「自分にできるだろうか」といった不安な思考を繰り返し、日常生活や仕事に支障をきたすことがあります。適応障害は、ストレスの原因が比較的はっきりしているのが特徴であり、早めに対処することで早期の回復が可能です。

強迫性障害

自分の意思に反して不安な考えが繰り返し浮かび、その不安を打ち消すために同じ行動を繰り返してしまう状態です。「カギをかけ忘れたのではないか」「手が汚れているのではないか」といった考えが頭から離れず、何度も確認や手洗いをしてしまうことがあります。

気がかりな思考に振り回されることで、日常生活や人間関係に大きな負担となることがあります。

発達障害

自閉スペクトラム症*1などの発達障害の方は、生まれつき感覚が敏感でこだわりが強く、柔軟に考えることが難しいという性質があります。特定の出来事や考えに執着し、同じ内容を繰り返し考え続ける傾向があります。また、曖昧な状況や予測できない変化に強い不安を感じてしまい、ネガティブな思考の繰り返しが起こることがあります。

*1対人関係やこだわりの強さなどに特徴がある。

睡眠障害(不眠症)

睡眠の質が悪く、十分な睡眠がとれなくなる状態です。日中の出来事を思い出して後悔する、翌日の予定が不安になるなど、布団の中でも反すう思考が続くことで、脳がなかなか休めなくなり、寝つきが悪くなり、心身の状態が不安定になります。

当院での診療と主な治療法

思考のループが止まらず、日常生活に支障をきたすような場合には早期の対策や治療が必要です。当院では、以下のような治療を行っています。

心理療法・カウンセリング

カウンセリングでは、医師やカウンセラーとの対話を通じて、考えが止まらない原因や考え方のクセに気付くことから始めます。例えば、「失敗するかもしれない」といったネガティブな考えを、「やってみないと分からない」「失敗しても学びがある」といった前向きな考えに変えていくことで、気持ちが楽になることがあります。

また、「もっと考えれば解決できる」「考えないと不安」といった思い込みは、反すう思考を長引かせる原因になります。「考えても答えが出ないことは、一度手放す」といった柔軟な捉え方を身に付け、自分の思考と適度に距離を取る練習をすることで、反すう思考に陥りにくくすることが可能です。

当院には、心理師が在籍しており、患者さんの状態に合わせて無理のないペースで治療を進めていきます。

カウンセリングの料金など詳細については、以下のページをご覧ください。

薬物療法

反すう思考による不安や緊張、気分の落ち込みが強い場合には、心理療法と併用して薬物療法を行うことがあります。当院では、患者さんの症状や体質に合わせて必要最小限の薬剤を選び、副作用にも注意しながら慎重に調整していきます。

症状が安定し、服薬の必要がなくなれば、医師と相談しながら少しずつ減薬することも可能です。

SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)

脳内のセロトニン*2の働きを調整し、不安や緊張を和らげる作用があります。

依存性が少なく安全性が高いため、うつ病や不安障害などに広く用いられています。

即効性はありませんが、2~8週間ほどで徐々に効果が現れ、症状の改善が期待できます。

服用初期には一時的に不安が強まる場合がありますが、多くの場合、徐々に落ち着きます。

*2精神の安定や心のバランスを保つ作用のある神経伝達物質。

抗不安薬(ベンゾジアゼピン系)

神経の高ぶりを鎮め、不安や緊張を和らげる作用があります。即効性がある反面、依存や耐性がつきやすいため、長期間の服用は避け、必要な時にのみ一時的に使用します。

医師の指導のもと、使用量と期間を慎重に管理して、安全に使用していきます。

思考のループを抜け出すための対策・セルフケア

反すう思考の改善には、医療機関での治療と併せ、ご自身でも日頃の過ごし方を見直し、適切な対策やセルフケアをすることが大きな助けになります。

考えごとは、やめようと思えば思うほど、逆に考えが深まってしまう傾向があります。

そんな時は、無理に止めようとせず、思考から意識をそらす工夫や、考えに巻き込まれないための行動をとることが有効です。ご自身のなかで取り入れやすいものから試してみましょう。

原因から距離をとる

反すう思考のきっかけとなる人間関係やSNS、特定の場所や物がある場合は、それらと少し距離を置いてみましょう。例えば、SNSの投稿を見て気分が落ち込む場合には、一時的に利用を控えることで心が楽になることがあります。

体を動かす

じっとしていると思考が止まらない状態が継続しやすくなります。ウォーキングやストレッチなどの軽い運動、家事などで体を動かすことで、思考のループから注意をそらす効果が期待できます。

自然と触れ合う

山や海、緑の多い公園など、自然の中で過ごす時間は、心を落ち着かせ、思考のリセットに有効です。木々の緑や花の香り、波や風の音などに五感を向けることで、考えごとから少し距離を置くことができます。日光を浴びることは、気分のリフレッシュにも効果的です。

環境を変える

長時間同じ場所にいると、気持ちが切り替わらず、考えが深まって止まらなくなることがあります。そんな時は、カフェや図書館、公園など違う場所に移動するのも一つの方法です。視界に入るものが変わることで、思考の流れも自然に切り替わりやすくなります。

考えを書き出してみる

どうしても考えごとが止められない時は、ぐるぐると考え続けていることを紙やスマホのメモにそのまま書き出してみましょう。書くことで思考が整理され、冷静に自分の考えを見直すことができる場合があります。考えていたことが、それほど深刻なことではなかったと気付くこともあります。何度か続けることで、自分の思考のクセも分かってきます。

考える時間をあらかじめ決める

無理に考えないようにするのではなく、「5分間だけ考える」など、あらかじめ「考える時間」を決めておくと、頭の中の思考のループを打ち切りやすくなります。タイマーで時間を計り、時間が来たら別の行動をする、という習慣をつけることで、思考を切り替えやすくする効果が期待できます。

ありのままの自分を受け入れる

考えすぎてしまう自分を否定し、責めてしまうと、かえって反すう思考が強まることがあります。

気になってしまうのは、それだけ心が頑張っている証拠です。ありのままの自分を受け入れ、今感じている気持ちを正直に認めることで、心が和らぎ、思考の悪循環から抜け出しやすくなります。

よくある質問

  • ぐるぐる思考に陥りやすい人の特徴は?

    疲れやストレスを感じた時は、誰でも反すう思考に陥ることがありますが、心配性な方、過去の失敗を引きずりやすい方、周囲の状況や他人の感情に敏感なHSP*3の方などは、反すう思考に陥りやすく、ご自身の思考に振り回されやすい傾向があります。これらは、あくまでも性格や生まれ持った気質によるものであり、自分が弱いからだと思う必要はありません。ご自身の特性を理解し、環境を整え、対処法を身に付けることで、反すう思考を抑えることは可能です。一人では抜けられない反すう思考も、医師やカウンセラーと一緒に立ち向かうことで、気持ちが整理され、解決できることもあります。つらいと感じる時は、無理せずご相談ください。
    *3「Highly Sensitive Person」の略で、生まれつき非常に感受性が高く、周囲の刺激に敏感な気質を持つ人のこと。

  • 考えすぎる傾向がありますが、どのようなタイミングで受診したらよいですか?

    考えごと自体は悪いことではありませんが、「考えごとを止めたいのに止められない」「考えすぎて眠れない・集中できない」など、いつも心が落ち着かず、日常生活に支障が出ている時には専門的な治療が必要です。早めにご相談いただくことで、症状の悪化を防ぎやすくなります。

院長からのひと言

私たちは、不安や後悔を感じた時、自分の中で整理しようと、つい深く考えすぎてしまうことがあります。考えることは、人間にとって大切な力です。悩んだり、立ち止まったりすることで、人は成長し、強くなります。

しかし、どれだけ考えても答えが見つからず、つらさが続く時には、その力が心の負担に変わってしまうことがあります。そんな時は、これ以上深く考えるのをやめて、ご自身の心を守ることも大切です。

心の不調は、自分では気づきにくいものです。

当院では、患者さんの思いや背景を丁寧に伺いながら、安心できる方法を一緒に探していきます。どうか、一人で抱え込まず、お気軽にご相談ください。

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