パニック障害

パニック障害とは?

パニック障害は、場所や時間に関係なく、突然強い恐怖に襲われる「パニック発作」を繰り返す病気です。発作は、極度の不安によって引き起こされ、「動悸」「胸の痛み」「息苦しさ」「めまい」などの身体症状を伴います。また、「このまま死んでしまうのではないか」と感じるほどの強い恐怖を伴うのが特徴です。

パニック発作は、通常、数分から数十分で治まり、医療機関で検査をしても身体的な異常が見つからないことがほとんどです。しかし、発作を繰り返すうちに、「また発作が起こるのではないか」という不安(予期不安)に悩まされて外出できなくなるなど、日常生活や社会活動に支障をきたすようになり、うつ病などを併発するリスクも高くなります。

当院では、患者さんの不安や恐怖に寄り添い、パニック障害の症状を軽減する治療を行っております。強い不安や緊張でお悩みの方は我慢せず、ぜひ一度当院にご相談ください。

パニック障害のセルフチェック

以下のような項目に複数当てはまる場合、パニック障害の可能性があります。

ただし、これらの症状は一時的な不調でも起こることがあるため、自己判断ではなく、専門の医師の診断を受けることが大切です。

  • 電車や人混みの中で突然苦しくなり、逃げ出したくなることがある
  • 体に異常はないのに、前触れなく、激しい動悸や息切れを感じることがある
  • 発作時、自分の体ではないような感覚になる
  • 発作時、このまま死んでしまうのではないかという恐怖を感じる
  • 「また発作が起こるのではないか」という不安があり、外出をためらってしまう
  • 発作後、病院で検査を受けたが、身体的な異常は無いといわれた

パニック障害の好発年齢と有病率

パニック障害は、比較的よく見られる精神疾患のひとつで、決して珍しい病気ではありません。

日本におけるパニック障害の生涯有病率は約1%とされています。つまり、100人に1人が一生のうちに一度はパニック障害を経験する可能性があるという計算になります。

この障害は、若い世代の発症が多く、20~30歳代に多く見られますが、近年、さらに低い年代での発症も増えてきているといわれています。

また、発症率には男女差もあり、女性は男性の約2倍と高くなっています。

ストレスフルな現代社会において、パニック障害は誰にでも起こる可能性がある病気です。

放置していると徐々に症状が悪化していくため、思い当たる症状がある時は、早期に受診して治療に繋げることが大切です。

厚生労働省科学研究成果データベース パニック障害の罹患率

パニック障害の原因

パニック障害の原因は、まだ完全には解明されていませんが、以下のような要因が関連して発症すると考えられています。発症の要因はひとつとは限らず、複数の要因が複雑に関係し、発症することもあります。

脳の働きの変化

パニック障害の発症には、脳内の不安や恐怖を感じる機能に変化があることが分かっています。特に、「セロトニン*1」や「ノルアドレナリン*2」という神経伝達物質(神経細胞間の情報伝達をする物質)のバランスが崩れることで、不安や恐怖などの感情が起こりやすくなると考えられています。

また、脳の中の「扁桃体(へんとうたい)*3」という部分が過剰に反応しやすくなることも関係しているといわれています。

*1「幸せホルモン」とも呼ばれ、心を安定させ、心身をリラックスして安心感を保つ作用がある。

*2脳の覚醒や記憶の維持などに関わる物質。ストレスや恐怖などによって分泌が促進され、血圧上昇や心拍数の増加、筋肉の緊張など交感神経の活性に関わる。

*3 脳の側頭葉の内側にあるアーモンド形の器官。「感情の中枢」と呼ばれ、情動や感情の処理、記憶形成などに重要な役割を果たしている。恐怖や不安といったネガティブな感情にも関与することが知られている。

遺伝

パニック障害は、遺伝的要因が一部関係していると考えられています。必ず発症するわけではありませんが、親や兄弟など、家族にパニック障害や他の不安障害を持つ人がいる場合、発症リスクが高くなる傾向があります。

心身のストレス・性格

仕事や家庭、人間関係のトラブル、引っ越しや転職といった環境の変化などによる精神的な強いストレスが発症のきっかけになることがあります。特に、繊細、神経質、生真面目、几帳面、責任感が強い、完璧主義、こだわりが強い、感受性が高い、といった性格の傾向(パーソナリティ)がある方は、ストレスに対して過敏に反応しやすく、パニック障害を発症しやすい傾向があります。

生活習慣の影響

生活が乱れて睡眠不足が続くと、自律神経のバランスが崩れ、交感神経が活性化して不安や緊張が高まりやすくなります。また、疲労が蓄積し、ストレスへの耐性が低下するため、些細なストレスでもパニック発作のきっかけになる可能性があります。

その他、たばこ、カフェイン、アルコールといった刺激物は、交感神経を刺激して心拍数を上げ、緊張を招くため、パニック発作の誘因や悪化に繋がることがあります。

過去のトラウマ体験

事故や災害、いじめ、虐待といった過去のトラウマ体験(心的外傷)によって脳内のストレス反応が過敏になり、パニック発作を引き起こすことがあります。

パニック障害の症状

パニック障害の代表的な症状は「パニック発作」と呼ばれる激しい不安や恐怖、そしてそれに伴う身体症状です。発作は前ぶれなく起こり、数分以内に不安や恐怖がピークに達します。

発作時には、以下のような身体症状が同時にいくつも現れるのが特徴です。

発作の頻度は個人差が大きく、数か月にわたって毎週もしくは毎日発作を起こす方もいれば、発作のない期間が数週間から数か月続く方もいます。

≪パニック発作で生じる主な身体症状≫
  • 動悸がする、心拍数が急に上がる
  • 冷や汗や大量の汗が出る
  • 手足や体が震える
  • 息がしづらい、息苦しい
  • 窒息しそうな感じがする
  • 胸が痛む、胸が締め付けられる感じがする
  • 吐き気がする、お腹が苦しくなる
  • めまいやふらつき、意識が遠のく感じがする
  • 現実感がなくなる、自分が自分ではない感覚
  • 自分をコントロールできない、気が変になってしまうのではないかという恐怖感
  • このまま死んでしまうのではないかという恐怖感
  • 手足がしびれる、感覚が鈍くなる
  • 体が急に冷たくなる、もしくは熱くなる

心の状態と日常生活への影響

パニック発作を何度も経験すると、患者さんはその発作の恐怖が頭から離れなくなります。

「また発作が起こるのではないか」と不安になり、発作のことばかり考えてしまうようになります。このような状態を「予期不安」といいます。

予期不安が強くなると、過去に発作を起こした場所や状況を避けるようになります。例えば、人混みや電車などを避けるようになり、外出が難しくなるなど行動範囲が狭まっていきます。この状態は「広場恐怖」と呼ばれ、日常生活に大きな支障をきたすことがあります。

たとえ月に1~2回の発作の場合であっても、予期不安や回避行動が重なることで生活全体に悪影響を及ぼすことがあります。外出できなくなって家に引きこもったり、発作をコントロールできない無力感から気持ちが落ち込み、うつ病を併発したりすることもあるため、早期に診断と治療を受ける必要があります。

パニック障害の診断

医師の診察では、患者さんの症状やお困りのことについて丁寧にお話を伺います。

症状の詳細は前述の通りですが、一般的に4つ以上の身体症状が同時に現れる場合、パニック障害と診断することが多いです。ただし、動悸や胸の痛み、手足の震えといった症状は、心臓や甲状腺などの身体的な病気が原因の場合も考えられるため、必要に応じて血液検査やX線検査、心電図検査などを行うことがあります。

また、社交不安障害、PTSDなど、他の心の病気との区別も必要になります。発作の起こるきっかけや状況、予期不安や回避行動の有無、これまでの病歴や精神状態などを考慮し、総合的に診断します。

【パニック障害の基本的な診断基準】

  • 突然のパニック発作が繰り返し起こっている
  • 「また発作が起こるのではないか」という予期不安が1か月以上続いている
  • 発作を避けようとする回避行動がある
  • 発作が身体疾患や薬の影響によるものではない
  • 他の精神疾患が原因ではない

パニック障害の治療

パニック障害の治療には、薬物療法と精神療法(心理的なサポート)があります。

患者さんの症状やご希望に合わせ、2つの方法を組み合わせて治療を進めていきます。

治療の効果には個人差がありますが、早い方では数週間~数か月で症状が軽減し、半年~1年ほどで安定するケースもあります。

なお、症状の改善や再発予防には、医療機関で行う治療に併せ、日々の生活習慣を整えることも重要です。日常生活で行うセルフケア(次項を参照)も併せて行っていきましょう。

薬物療法

パニック発作を起こりにくくし、予期不安や広場恐怖を軽減するため、抗うつ薬や抗不安薬などの内服を行います。当院では、薬の使用は必要最小限に留めておりますが、薬の服用に不安がある方はお気軽にご相談ください。

SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)

セロトニンの働きを調整し、不安や緊張を和らげる作用があります。

代表的なうつ病の治療薬ですが、依存性が少なく、比較的安全性が高いため、パニック障害の治療にも多く使われています。即効性のある薬ではないため、初期に不安が一時的に悪化する場合もありますが、2~8週間ほどで症状が軽減し、落ち着くケースが多いです。

抗不安薬(ベンゾジアゼピン系)

服用すると、不安が和らぎ、動悸や息苦しさ(過呼吸)、震えなどの身体症状を短時間で抑える効果が期待できます。ただし、長期間の服用は依存や耐性の問題があるため、発作時の頓服薬としての服用にとどめます。

精神療法

カウンセリングを通じて、不安や恐怖感を引き起こす考え方や行動のパターンを見直し、徐々に修正していくことで、症状の改善を目指します。また、発作が起きた時や不安を感じた時に冷静に対応できるよう、以下のような訓練を行うことも有効です。

曝露療法(エクスポージャー療法)

医師やカウンセラーの指導の下、少しずつ敢えて不安な状況に身をさらし、段階的に慣れていく方法。(例:コンビニに入る練習→電車に乗る練習など)

漸進的筋弛緩法(PMR)

体の各部位の筋肉を意図的に緊張させ、その後、弛緩させることを繰り返すことで、身体と心の緊張をほぐし、リラックス状態を得る方法。

呼吸法(4・4・8呼吸)

パニック発作や過呼吸は酸素の取り込み過ぎによって起こるため、「4秒息を吸う→4秒息を止める→8秒で息を吐く」という呼吸を繰り返すことで、発作時に呼吸を落ち着ける方法。

当院では、臨床心理士・公認心理師が在籍しており、患者さんの状態に合わせたカウンセリングや治療法を無理のないペースで行っています。

カウンセリングの料金など詳細については、以下のページをご覧ください

日常生活での対処方法(セルフケア)

パニック障害の改善には、毎日の生活の中でのセルフケア(自己管理)がとても重要です。

日々の過ごし方を少しずつ整えていくことで、治療の効果を高め、症状の改善や再発の予防に繋げることができます。

生活習慣を整える

生活リズムの乱れは、自律神経のバランスに影響し、症状の悪化につながります。

ストレスを軽減し、緊張を和らげるためにも、バランスの良い食事と十分な睡眠をとり、起床時間や就寝時間はできるだけ一定に保ちましょう。

また、パニック発作の引き金になるたばこやカフェイン、アルコールはできるだけ控えましょう。

軽い運動を取り入れる

ウォーキング、ストレッチ、ヨガなどの軽い運動は、気分を落ち着ける脳内物質(セロトニン)の分泌を促し、心を落ち着かせる効果が期待できます。身体を動かすことで血流が良くなり、ストレスを和らげ、気持ちを前向きにすることが可能です。

リラックス時間を確保する

緊張をほぐし、交感神経の高ぶりを抑えるため、好きな音楽を聴く、趣味に没頭する、ペットと遊ぶ、家族や友人との会話など、自分に合ったリラックス法を見つけ、意識して行うようにしましょう。マインドフルネスや瞑想、深呼吸なども効果が期待できます。

よくある質問

  • パニック発作が起こりやすいのはどんな時ですか?

    パニック障害の発作は、電車やエレベーターなど、閉鎖的な空間で起きやすいのが特徴です。
    狭くて自由に動けない場所は、逃げ場がないと感じてしまい、不安が強まることで発作が起こりやすくなると考えられています。また、以前に発作を経験した場所も、その時の記憶を呼び起こすため、再び発作が起こるケースがあります。
    一方、入浴中や就寝前などのリラックス時に発作が起こるケースもあります。これは、日中に溜まった緊張やストレスが、ふとしたタイミングで一気に放出されることが関係すると考えられています。

  • パニック障害は再発することがありますか?

    パニック障害は、適切な治療を受けると、数か月~1年程度で改善が見られることが多いですが、再発しやすい病気であるため、自己判断で治療を中断せず医師の指示に従って治療を続けていくことが大切です。また、睡眠不足や疲労、ストレスなどが再発の引き金になることがあるため、症状が落ち着いている場合でも、健康的な生活習慣を続けていくことが大切です。

  • 家族がパニック障害と診断されました。どのようにサポートすればよいですか?

    この障害は、外見からは判断できず、検査でも異常が見つからないことが多いため、周囲から理解されにくいですが、発作を繰り返す状態はとても苦しいものです。
    ご家族の方は、病気を正しく理解し、落ち着いて見守ることが大切です。患者さんが不安な気持ちを打ち明けた時は、否定せずに受け止め、共感することで患者さんは安心感を得ることができ、大きな心の支えになります。
    また、治療の一環で行う曝露療法(不安な場所に少しずつ慣れる治療)では、ご家族や周囲の方の協力が必要不可欠です。医師やカウンセラーなどと連携し、一歩一歩回復を目指しましょう。

院長からのひと言 

パニック障害は、適切な治療を受けることで回復が期待できる病気です。

発作は強い不安や恐怖を伴い、非常につらく感じられることもありますが、命にかかわるものではなく、時間の経過とともに自然に治まることが多いとされています。また、呼吸法など、発作時の対処法を身に付けておくことで、不安を和らげることも可能です。

当院は、患者さんの気持ちに寄り添い、安心して治療に取り組める環境づくりを大切にしています。

治療を通して少しずつ不安や恐怖と向き合い、前向きな気持ちを取り戻していけるよう、スタッフ一同サポートいたします。

焦らず、できることから始めることが心と体の安定につながります。

どうぞ、お一人で抱え込まず、私たちにご相談ください。

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