広場恐怖症

広場恐怖症とは?

広場恐怖症は、不安障害のひとつであり、ある特定の場所や状況に強い不安や恐怖を抱く状態です。人によって症状はそれぞれ異なりますが、人混みや映画館、電車やバスなどの公共交通機関、エレベーターなど、「逃げ出せない」「助けを求められない」と感じやすい場所や閉鎖的な空間に対して強い不安や恐怖を生じる傾向があります。

患者さんは、それらの空間に対して居心地の悪さを感じるだけでなく、動悸やめまい、息苦しさといった身体的な症状を伴う場合が多く、突然のパニック発作をきっかけに発症するケースも少なくありません。

このような状況が繰り返されると、患者さんは次第に外出を避けるようになり、仕事や学校などの日常生活に支障をきたします。重症化すると家から出られなくなり、自宅に引きこもってしまうケースもあるため、早期に適切な治療が必要です。

外出に強い不安や恐怖がある方、体調に不安を感じる方は放置せず、ぜひ当院にご相談ください。

広場恐怖症のセルフチェック

以下の症状は、広場恐怖症でよく見られる症状です。

当てはまる項目があるか確認してみましょう。

  • 電車やバスに乗るのが怖くて避けてしまう
  • 人混みにいると落ち着かなくなる
  • 一人で外出することに不安を感じる
  • 急に体調が悪くなった時、すぐに助けが得られない状況が不安
  • 映画館や会議室のような閉鎖空間が苦手で避けてしまう。
  • 「また発作が起きるのでは」と心配して外出を控えている

広場恐怖症の好発年齢と有病率

広場恐怖症は、特に若い世代に多く見られるのが特徴で、10代後半から20代前半が発症のピークといわれています。また、女性に多く見られるのも大きな特徴のひとつであり、女性の発症率は男性の約2倍に上ります。

アメリカの精神医学会が作成した診断基準(DSM-5*1)によると、広場恐怖症の生涯有病率は1.5%と報告されています。*2今後も目まぐるしい環境の変化やストレスの増加などとともに患者数は増加傾向が推測されます。放置していると徐々に症状が悪化していく可能性があるため、思い当たる症状がある時は、早期にご相談ください。

*1「精神疾患の診断・統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)」は、世界的に広く用いられている精神疾患の診断基準と分類を示すマニュアルです。

*2A comparison of DSM-5 and DSM-Ⅳ agoraphobia in the World Mental Health Surveys

広場恐怖症の原因

広場恐怖症の明確な原因はまだ完全には解明されていませんが、以下のような要因が関係するといわれています。これらの要因は1つとは限らず、いくつかの要因が複雑に重なり、特定の場所に対する強い不安感が形成されていくと考えられています。

脳の働きの変化

広場恐怖症の発症には、脳内の神経伝達物質(神経細胞間の情報伝達をする物質)のバランス異常が指摘されています。特に、「セロトニン*3」と「ノルアドレナリン*4」という神経伝達物質のバランスが崩れることで、不安や恐怖などの感情が起こりやすくなると考えられています。

また、脳の恐怖や不安を処理する「扁桃体(へんとうたい)*5」という領域が過剰に反応しやすくなることも要因のひとつと考えられています。

*3「幸せホルモン」とも呼ばれ、心を安定させ、心身をリラックスして安心感を保つ作用がある。 

*4脳の覚醒や記憶の維持などに関わる物質。ストレスや恐怖などによって分泌が促進され、血圧上昇や心拍数の増加、筋肉の緊張など交感神経の活性に関わる。

*5脳の側頭葉の内側にあるアーモンド形の器官。「感情の中枢」と呼ばれ、情動や感情の処理、記憶形成などに重要な役割を果たしている。恐怖や不安といったネガティブな感情にも関与することが知られている。

遺伝または家族歴

広場恐怖症は、種々の恐怖症の中でも遺伝的要因が強いことが知られており、家族に広場恐怖症や他の不安障害を持つ人がいる場合には発症のリスクが高くなる傾向があります。

精神的なストレス

広場恐怖症は、精神的なストレスが原因で発症することもあります。親しい人との死別や深刻な病気といったライフイベントのほか、仕事や人間関係といった日常生活におけるストレスによって自律神経が乱れ、精神的な症状が出やすくなる可能性が考えられます。

パニック発作

パニック障害の方は広場恐怖症を併発する方が多いといわれています。パニック発作を経験した人が、「また発作が起こるのではないか」という不安に襲われ、再び発作が起こる状況を避けるようになり、広場恐怖症の症状として現れることがあります。

広場恐怖症の症状

広場恐怖症の主な症状は、特定の状況に対する強い恐怖や不安です。

不安を生じた時、「逃げられない」「助けを求められない」と感じる状況や場所で症状が現れやすく、動悸やめまい、呼吸困難、震え、発汗といった自律神経症状(身体症状)を伴うことが多いです。

これらの症状に耐え難い苦痛を感じて、恐怖を引き起こす状況を避けるようになり、「外出を控える」「公共交通機関を使わない」といった回避行動が徐々に目立つようになります。

重症になると、一人では家から出られなくなる「外出恐怖」という状況に陥り、仕事や学校生活といった社会活動が大きく制限され、うつ病などを併発するケースもあります。

≪広場恐怖を生じやすい場所の例≫
  • 公園や広場、ショッピングモールやスーパーマーケットなど、人が多く集まる場所
  • 電車、バス、飛行機、地下鉄などの公共交通機関で、密閉された空間で多くの人がいる場所
  • レジ、窓口、行列など、長時間立ち止まる必要がある場所
  • エレベーター、トンネル、映画館、劇場など、逃げ場が限られている閉鎖的な場所
  • 橋、駐車場、高速道路、高い場所など、状況によっては逃げ出すのが難しい場所

広場恐怖症の診断

診察では、患者さんの症状や発症時期、お困りの症状などを詳しく伺います。

動悸やめまい、震えなどの症状は他の身体疾患でも生じることがあるため、必要に応じて血液検査などを行います。

また、パニック障害や社交不安障害といった他の精神疾患との鑑別も必要です。当院では、問診や検査の結果をもとに、以下のDSM-5の診断基準に沿って診断を行います。

【DSM-5広場恐怖症の診断基準】

  • 広場や公共の場所など、パニック発作が起こりやすい状況に対する強い恐怖や不安がある。
  • 特定の場所や状況下で、ほとんど毎回パニック発作が起こる。また、発作が起こることに強い恐れを生じている。
  • 恐怖や不安は、実際のその状況に対して明らかに過剰なものである。
  • 恐怖や不安を生じている状況を積極的に避けている、またはその空間で強い不安や苦痛を耐えている。
  • 強い恐怖や不安、またそれらを避けるための回避行動が、仕事や学校などの社会活動に支障をきたしている。
  • これらの症状が6か月以上続いている。

広場恐怖症の治療

広場恐怖症の治療には、薬物療法と心理療法(心理的なサポート)があります。

当院では、患者さんの状態や症状の程度、ご希望などに合わせ、2つの方法を組み合わせて治療を進めていきます。治療の効果には個人差がありますが、早い方では数週間~数か月で症状が改善し、半年~1年ほどで安定するケースもあります。

なお、症状の改善や再発予防には、医療機関で行う治療のほか、食事や運動といった生活習慣を見直し、日常生活で行うセルフケアも併せて行うことが必要不可欠です(次項を参照)。

薬物療法

当院では薬の使用は必要最小限に抑えておりますが、必要に応じて以下のような薬剤を適切に使用します。薬の服用などに関して不安がある方はお気軽にご相談ください。

SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)

セロトニンの働きを調整し、不安や緊張を和らげる作用があります。代表的なうつ病治療薬ですが、依存性が少なく、比較的安全性が高いのがメリットで、広場恐怖症に伴う不安やパニック症状を軽減する効果が期待できます。

即効性はないため、服用初期に不安が一時的に悪化する場合もありますが、2~8週間ほどで症状が改善し、徐々に落ち着くケースが多いです。

抗不安薬(ベンゾジアゼピン系)

パニック発作が起きた時など、不安が強い時に一時的に症状を緩和するための薬剤です。

即効性があり、服用すると短時間で不安が和らぎ、動悸や息苦しさ(過呼吸)、震えなどの身体症状を抑える効果が期待できます。ただし、依存や耐性の問題があるため、長期間の服用には適しません。

精神療法

カウンセリングを通じて、不安や恐怖感を引き起こす考え方や行動のパターンに気付き、修正していくことで、不安の軽減を目指します。例えば、「人が多い場所でパニックになるかもしれない」という否定的な考え方を「人が多くても深呼吸をすれば落ち着くことができる」といった現実的な考え方に修正することで、不安や緊張を和らげることが可能です。

また、不安を感じた時に冷静に対応するための以下のような訓練も併せて行っていきます。

曝露療法(エクスポージャー療法)

不安を感じた時の回避行動を克服するための練習で、段階的に恐怖を感じる状況に身をさらしていくことで、不安の克服を目指します。医師やカウンセラーの指導の下、最初は軽い不安を感じる状況から始め、徐々に恐怖の強い状況へと移行していくことで、恐怖の対象に対する耐性を高めることが可能です。

(例)電車に乗るのが怖い場合

 第一段階:駅のホームに行って電車を見る→第二段階:一駅だけ電車に乗る→第三段階:長い距離電車に乗る

当院では、臨床心理士・公認心理師が在籍しており、それぞれの患者さんの状態に合わせたカウンセリングや治療法を無理のないペースで行っています。

カウンセリング料金などの詳細については、以下のページをご覧ください

日常生活での対処方法(セルフケア)

広場恐怖症の改善には、毎日の生活の中でのセルフケア(自己管理)がとても重要です。

クリニックでの治療と並行して、日々の過ごし方を少しずつ整えていくことで、治療の効果を高め、症状の改善や再発の予防に繋げることができます。

生活習慣を整える

生活リズムの乱れは、自律神経のバランスに影響し、症状の悪化につながります。

心身の健康を保つためにも、バランスの良い食事を心がけましょう。たばこやカフェイン、アルコールは不安を高めることがあるため、できるだけ控えましょう。

睡眠不足は、不安や恐怖を悪化させる可能性があります。寝る前は、静かにリラックスできる時間をとって睡眠の質を高めるとともに、起床時間や就寝時間はできるだけ一定に保ちましょう。

軽い運動を取り入れる

ウォーキング、ストレッチ、ヨガなどの軽い運動は、気分を落ち着ける脳内物質(セロトニン)の分泌を促し、心を落ち着かせる効果が期待できます。身体を動かすことで血流が良くなり、心身のリフレッシュになるうえ、ストレスを和らげ、気持ちも前向きにすることが可能です。

リラックス時間を確保する

緊張をほぐし、交感神経の高ぶりを抑えるため、一日の中で意識してリラックスできる時間をとりましょう。好きな音楽を聴く、趣味に没頭する、ペットと遊ぶ、家族や友人との会話など、自分に合ったリラックス法を見つけましょう。アロマセラピー、マインドフルネス、瞑想、深呼吸なども効果が期待できます。

よくある質問

  • 広場恐怖症とパニック障害の違いは何ですか?

    広場恐怖症は、特定の状況や場所での恐怖や不安、回避行動が症状であるのに対し、パニック障害は、特定の場所に限らず、突然の恐怖や不安感といった予期できないパニック発作を生じるのが特徴です。それぞれ特徴を持った異なる病気ですが、併発することも多く、どちらが主症状なのか、症状の程度や状況などによって診断が異なります。

  • 広場恐怖症になりやすい性格はありますか?

    広場恐怖症は、感受性の高い人や内省的な性格の方などに多い傾向があります。
    感受性の高い人は、周囲の人の感情を敏感に感じ取り、深く共感できるのが特徴で、共感性や創造性に優れ、喜びや感動などを人一倍感じます。また、内省的な性格の方は、自分の心の内面や行動などを深く見つめ、客観的に考えることができるのが特徴で、自己成長や問題解決能力に長けています。
    どちらも優れた長所ではあるものの、行き過ぎると過度に周りを気にしすぎてしまったり、考えすぎてしまったりして、精神的なストレスや疲労がたまりやすく、必要以上に緊張や恐怖を強く感じてしまう傾向があると考えられます。

  • 広場恐怖症の治療にはどのくらいの期間がかかりますか?

    治療の経過には個人差がありますが、薬物療法や精神療法を適切に行った場合、数か月~半年程度で症状の改善が期待できます。ただし、ストレスや生活環境の変化などで再発するケースも多いため、症状が落ち着いている場合でも規則正しい生活を心がけ、心身のストレスをためない生活を続けていくことが大切です。

院長からのひと言 

広場恐怖症は、適切な診断と治療によって、少しずつ症状をコントロールできるようになります。

外出を控えていたり、日常生活に支障を感じていたりして、つらい思いをされている方もいらっしゃるかもしれません。ですが、ひとりで悩みを抱え込まず、まずは一歩踏み出し、勇気を出して相談してみることが大切です。

当院では、患者さん一人ひとりの症状を丁寧にお伺いし、不安を和らげるための治療をご提案しています。お一人おひとりの気持ちに寄り添いながら、安心して治療を受けていただけるよう、サポート体制を整えております。不安を感じた方は、どうぞお気軽にご相談ください。

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