強迫性障害

強迫性障害とは?

強迫性障害(OCD*1)は、自分の意思に反して不安な考えが頭から離れず、その不安を打ち消すために、同じ行動を何度も繰り返してしまう病気です。例えば、「手が汚れている気がして、何度も手を洗う」「カギを閉めたか不安で戸締りを何度も確認する」といった行動が典型的です。

このように、繰り返し浮かんでくる不安な考えを「強迫観念(きょうはくかんねん)」、それを打ち消すための行動を「強迫行為(きょうはくこうい)」といいます。

強迫性障害の方の多くは、ご自身でもやりすぎだと認識していても、強い不安から強迫行為をやめられません。ときには、安心を求めて家族や周囲の人に何度も確認してしまい、人間関係がぎくしゃくすることもあります。

こうした状態が続くと、行動は次第にエスカレートし、1日の大半を強迫行為に費やすようになります。その結果、仕事や勉強など、本来やるべきことが手につかず、生活の質(QOL*2)が大きく低下してしまいます。さらに、症状が悪化すると外出を避けて引きこもってしまったり、気持ちが落ち込み、うつ病を併発したりすることもあるため、早めに適切な治療を受けることが大切です。

*1 Obsessive-Compulsive Disorderの略。

*2 Quality of Lifeの略。暮らしやすさや心のゆとりのこと。

強迫性障害のセルフチェック

以下の症状は、強迫性障害でよく見られる症状です。

当てはまる項目があるか確認してみましょう。

  • 身体の汚れやウイルス・細菌感染が気になり、過剰に洗ってしまう
  • 外出前、戸締りやガスの元栓、電気のスイッチを何度も確認する
  • 根拠がないにも関わらず、他人に危害を加えたと思い込んで不安になる
  • 特定の順番や配置にこだわりがあり、その通りにならないと不安になる
  • ラッキーナンバーや不吉な数字など、特定の数字に強くこだわる
  • ものを大量に集める癖があり、不必要なものでも捨てられない
  • 強いこだわりのせいで生活が不便になっていると感じる

強迫性障害の有病率と好発年齢

強迫性障害は、誰にでも起こりうる身近な心の病気であり、決して珍しいものではありません。

しかしながら、周囲から「性格の問題」や「ただのこだわり」と誤解されてしまうことも多く、適切な治療を受けられずに、長年悩み続けている方も少なくありません。

日本国内では、生涯で強迫性障害を経験する人の割合は人口の約1~2%といわれており、日本人のおよそ50~100人に1人が、この病気を経験していることになります。

一方で、症状に苦しみながらも自分では病気と気付いていないケースや、症状が重く受診が難しいケースもあるため、潜在的な患者数はさらに多いと考えられます。

発症しやすい年齢(好発年齢)は、20歳前後がピークであり、発症率に男女差はほとんどありません。ただし、男性は思春期~20歳頃に発症することが多いのに対し、女性では20~25歳頃の発症が多い傾向があり、妊娠や出産などのライフイベントをきっかけに発症するケースもみられます。

強迫性障害の特徴とタイプ

強迫性障害は、強迫観念と強迫行為がセットになって現れるのが特徴です。

また、患者さんのなかには、家族や周囲の人にも同じように強迫行為を求めてしまうケースもあります。このような関わりを「巻き込み」と呼び、巻き込み行動が続くことで家族関係や日常生活に大きな負担がかかることもあります。

この病気にはいくつかのタイプがあり、複数のタイプの症状が同時に見られることもあります。

強迫性障害の代表例として、以下のようなものがあります。

不潔恐怖と洗浄

自分や物が汚れている、または細菌やウイルスなどに汚染されると感じ、手洗いや入浴を繰り返します。衣服や家具を頻繁に消毒し、手荒れや皮膚炎を起こすほど強く洗ってしまう方もいます。症状が進むと、外の世界すべてが汚れていると感じて外出できなくなることがあります。

加害恐怖

「自分が誰かを傷付けてしまったのではないか」といった根拠のない不安にとらわれます。

例えば、「運転中に誰かを轢いたかもしれない」「無意識に誰かに害を与えたかもしれない」と感じ、ニュースを確認したり、謝罪を繰り返したりします。

確認行為

戸締りや火の元、電気の消し忘れなどが心配になり、何度も確認を繰り返します。

外出前に確認が終わらず、出かけるのに時間がかかる、予定に間に合わないといった支障がでることがあります。

儀式行為

「この手順を守らないと悪いことが起きる」といった思い込みから、特定の順序で物事を進めようとします。順序を間違えると最初からやり直す、意味のない呪文を唱える、自分で決めた根拠のないルールを他人にも求めるといった行動が見られます。

数字へのこだわり

特定の数字に対するこだわりが強くなります。ラッキーナンバーや不吉な数字などを極端に気にするようになり、時間、順番、回数、寸法などに強い不安や緊張を感じます。

配置や対称性へのこだわり

物の位置や左右対称に強くこだわり、揃っていないと強い違和感を覚えます。きちんと並んでいないと落ち着かないため、繰り返し並べ直しや調整に長い時間を費やし、日常生活に支障をきたすことがあります。

溜め込み(収集)

「いつか使うかもしれない」「捨てると不安」と感じ、不要なものであっても捨てられなくなります。

その結果、部屋や家がもので溢れ、生活空間が狭くなってしまうこともあります。

強迫性障害の原因

強迫性障害の原因は、完全に解明されてはいませんが、以下のような要因が複雑に関係して発症すると考えられています。

脳の神経伝達物質のバランスの崩れ

セロトニン*3やドパミン*4といった神経伝達物質の働きが弱くなることで、不安に振り回されやすくなり、強迫観念や強迫行為が起こりやすくなると考えられています。

*3 セロトニン:不安を抑えたり気持ちを落ち着かせたりする作用があり、「心のブレーキ役」といわれる物質。

*4 ドパミン:安心感や満足感を得た時に分泌される物質。やる気や快感に関係している。

気質・性格傾向

几帳面、完璧主義、神経質、潔癖、こだわりが強い、不安を感じやすい、といった性格や生まれつきの気質も、強迫性障害の発症に関係するといわれており、何らかのショッキングな出来事をきっかけに発症することがあります。

環境的要因

会社や学校でのプレッシャー、家庭内の不和、いじめ、不登校、ハラスメントなど、人間関係のストレスが発症の一因となることがあります。また、受験や就職、妊娠・出産といったライフイベントが発症のきっかけになることもあります。

遺伝・家族歴

強迫性障害は遺伝的な要因が大きいと考えられており、家族に強迫性障害の方がいる場合、発症しやすい傾向があります。ただし、親が強迫性障害の場合でも、必ず子供が発症するというわけではありません。

強迫性障害の診断

アメリカ精神医学会の作成した診断基準(DSM-5*5)では、「強迫観念や強迫行為のどちらか、もしくは両方が存在しており、1日1時間以上の時間を費やしている、もしくは苦痛や生活に支障がある」場合を強迫性障害と定めています。ただし、これらの症状が薬物の影響や、うつ病・統合失調症など他の精神疾患によるものではない場合に限られます。

当院では、診断に際し、丁寧な問診を行い、症状の種類や程度、生活への影響などを詳しく伺います。必要に応じて心理検査などを行い、症状の全体像を把握したうえで、適切な診断を行います。また、患者さんの不安や緊張をできるだけ軽減し、落ちついた状態でご相談いただけるよう、初診時には時間を十分に確保し、リラックスできる環境づくりに努めています。

*5アメリカ精神医学会が定めた精神疾患の国際的な診断基準。

強迫性障害の治療

強迫性障害の治療は、薬物療法と精神療法を組み合わせて行います。

薬物療法

強迫観念を和らげ、気持ちを落ち着けるために、薬剤の服用を行います。

薬物療法で強迫観念を薄れさせることで、その後の心理療法を効果的に進めることが可能になります。当院では、患者さんの症状や体質に合わせて薬剤を選び、副作用に注意しながら慎重に調整を行います。

SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)

セロトニンの働きを調整し、不安や緊張を和らげる作用があります。

依存性が少なく安全性が高いため、うつ病や適応障害、不安障害などに広く用いられています。即効性は期待できませんが、2~8週間ほどで徐々に効果が現れ、症状の改善が期待できます。

なお、服用初期には一時的に不安が強まる場合がありますが、多くの場合、徐々に落ち着きます。

抗不安薬(ベンゾジアゼピン系)

強い不安や緊張、動悸、息苦しさ、震えなどの身体症状をすばやく和らげる作用があります。

抗不安薬は、即効性が高い一方、依存や耐性がつきやすいため、SSRIの効果が現れるまでの期間、補助的に使用します。必要以上の長期使用は避ける必要があるため、医師の指示に従い、使用期間や量を調整することが大切です。

※なお、一定期間服用してもSSRIの効果が十分得られない場合には、SSRIに抗精神病薬などを併用する増強療法を行うこともあります。

心理療法・カウンセリング

カウンセリングでの対話を通して、不安や緊張を引き起こす考え方や行動のパターンを見直し、少しずつ「考え方のクセ」を変えていく治療です。

強迫性障害の代表的な治療には以下の方法があります。

暴露反応妨害法(ばくろはんのうぼうがいほう)

強迫観念に敢えて向き合い、それを打ち消すための強迫行為を行わずに、不安が自然に治まっていくのを待つ治療法です。

この治療の目的は強迫観念から強迫行為へとつながる悪循環を断ち切ることにあります。

最初は強い不安や抵抗を感じるかもしれませんが、ストレスや不安は時間が経てば必ず薄れていくものです。こうした体験を少しずつ積み重ね、「不安に反応しなくても大丈夫だ」という成功体験が増えることで、物事の捉え方(認知)が変化し、強迫観念が弱まっていく効果が期待できます。

≪暴露反応妨害法の例≫
  • 床、ドアノブ、公共のトイレなど「汚い」と感じるものに触れる→手を洗わずに我慢する
  • 戸締りが不安でも、鍵を閉めて外出する→不安になっても家に戻って確認しない
  • 捨てるのが怖いものを捨ててみる→捨てた後も気にしないで過ごす

この治療では、不安や恐怖に向き合う過程で、一時的に強い精神的ストレスを感じることがあるため、薬物療法で心の状態を安定させてから取り組むことが推奨されます。また、最初から難しい課題に挑戦するのではなく、ご本人にとって比較的負担の少ない課題からスタートし、段階的に進めていくことが大切です。

当院では、心理師が在籍しており、それぞれの患者さんの状態に合わせたカウンセリングを無理のないペースで行っています。治療法について、詳しく知りたい方はお気軽にご相談ください。

カウンセリング料金などの詳細については、以下のページをご覧ください

日常生活でできるセルフケアと注意点

強迫性症状の改善や再発の予防には、治療と併行して、日々の生活の中でできる工夫を行っていくことが大切です。すべてを完璧にやる必要はありません。できるものから無理のない範囲で取り組み、少しずつ前進しているご自身の努力を認めてあげましょう。

規則正しい生活リズムを保つ

生活リズムの乱れは、症状の悪化に繋がります。

毎日同じ時間に寝起きし、食事時間もできるだけ一定にしましょう。

バランスの良い食事と十分な睡眠

睡眠不足や栄養の偏りは心身の不調を招き、不安感やイライラを強める原因となることがあります。日頃から、栄養バランスの良い食事を摂り、十分な睡眠を確保しましょう。

適度に身体を動かす

身体を動かすことで、気持ちが切り替えやすくなり、ストレス解消にも役立ちます。

激しい運動をする必要はありません。ウォーキングやジョギング、ヨガなど、自分に合った運動を習慣にしましょう。

深呼吸する

不安な気持ちが強くなった時は、鼻から息を吸い、ゆっくり吐くことを意識し、深呼吸をして気分を落ち着けましょう。こうした呼吸を5~10分ほど続けることで、徐々に気持ちを落ち着かせることが可能です。「4秒かけて息を吸う→4秒間息を止める→8秒かけて息を吐く」を繰り返す4・4・8呼吸法*6など、日頃から、リラックスのための深呼吸のリズムを練習しておきましょう。

*6リラクゼーションのための呼吸法の一つ。

趣味や娯楽を楽しむ

好きな趣味に没頭している時は、強迫観念から離れやすくなります。

映画鑑賞、音楽鑑賞、ゲーム、読書など、自分が楽しいと思えるものを見つけましょう。

日記をつける

強迫観念や強迫行為を記録することで、自分のパターンを把握しやすくなります。

何が不安の引き金になるかが分かるようになると、対処がしやすくなります。

また、記録を医師と共有することで、治療がよりスムーズに進むこともあります。

よくある質問

  • 症状が落ち着いていますが、服薬を止めてもよいですか?

    強迫性障害の治療において薬物療法は重要な柱の一つです。
    症状が安定し、服薬の必要がなくなれば、徐々に減薬することも可能ですが、自己判断でいきなり薬を止めてしまうと、不眠やめまい、不安感などの離脱症状が現れたり、症状がぶり返したりするケースもあるため、注意が必要です。強迫性障害の場合、うつ病などに比べ、高容量で長期間の服薬が必要になることが多く、症状が落ち着いた後も1~2年は服薬を継続するのが一般的です。
    減薬・断薬は、医師の指示のもと、焦らずにじっくりと進めていくことが大切です。

  • 強迫性障害の家族がいます。どのようにサポートすればよいですか?

    強迫性障害は、ただの潔癖症やきれい好き、神経質な性格とは異なり、日々、強迫観念と強迫行為に振り回されている患者さんは、つらい思いを抱え、苦しんでいます。
    まずは、病気への理解を深めていただき、治療中は温かい目で見守り、強迫症状にうまく対処できなかった場合でも責めたりせず、患者さんの努力を認めてあげましょう。
    その一方、患者さんが周囲にも同じ行為を強要し、ご家族が巻き込まれて疲弊してしまうケースもあります。このように家族が巻き込まれてしまうと、症状が長期化しやすくなり、結果的に患者さんの強迫観念を強めてしまうこともあります。安易に同調して協力することは避け、必要な距離感を保つことが大切です。

院長からのひと言 

強迫性障害の症状の多くは、手洗いや戸締りの確認といった、誰もが日常的に行う行動と重なっています。そのため、ご自身では「これが病気かもしれない」と気付きにくく、「気のせい」「性格の問題」と思い込んでしまう方も少なくありません。

「病院にかかるほどではないかも……。」と迷われるお気持ちもよく分かります。ですが、少しでもつらさや不安を感じているようでしたら、ぜひ一度ご相談ください。

強迫性障害は、適切な治療とサポートがあれば、回復を目指せる病気です。

当院では、患者さんの気持ちに寄り添い、それぞれの方のペースに合わせた治療を大切にしています。強いこだわりや不安、思い込みなどで日常生活に支障を感じている方は、1人で抱え込まずにお気軽にご相談ください。

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