社交不安障害
社交不安障害(SAD)とは?
社交不安障害(SAD)*1は、別名「社会不安障害」や「あがり症」とも呼ばれる病気で、人前で話す・食事をするといった周囲から注目される状況に対して強い緊張や不安を感じてしまう病気です。
ただの「恥ずかしがり屋」や「内向的な性格」とは異なり、日常生活に支障をきたすほどの強い恐怖感や苦痛を感じるのが特徴で、赤面や発汗、動悸、震えといった身体症状を伴います。
この障害は、学童期や思春期といった若い世代の発症が多く、「内気」「おとなしい」など、周囲の人から性格的な問題として捉えられてしまい、患者さんは生きづらさや強い苦痛を抱えていることも少なくありません。
放置していると、次第に社交の場を避けるようになり、学校や職場に通えなくなるなど、社会活動に支障をきたし、孤独やうつ状態を招くリスクもあるため、早期の対応が重要です。
当院では、社交不安障害による症状にお悩みの方のための相談を行っております。
患者さんのお気持ちに寄り添い、それぞれの患者さんに適した治療で症状の改善を目指します。過度な不安や緊張にお困りの方は、どうか一人で悩まずに当院にご相談ください。
*1 Social Anxiety Disorderの略
社交不安障害のセルフチェック
以下のような項目に複数当てはまる場合、社交不安障害の可能性があります。
まずはお気軽にご相談ください。
- 人に注目されることに強い不安を感じる
- 周囲にどう思われるかが常に気になる
- 緊張で声が震えたり、顔が赤くなったりする
- 注目を浴びる場面や人付き合い避けてしまう
- 仕事や学校を休みがちになっている
社交不安障害(SAD)の好発年齢と有病率
社交不安障害は、不安障害2の一種であり、日本人にも比較的多くみられる精神疾患です。 発症の多くは10代前半から20代前半に集中しており、平均発症年齢は13歳とされています。また、発症率には男女差もあり、男性よりも女性の発症率が高い傾向にあります。 社交不安障害の生涯有病率(一生のうちに社交不安障害を経験する割合)は約13%とされており、およそ7人に1人が一生のうちにこの障害を経験するという計算になります。 ただし、この数値は主に海外の大規模調査に基づくものであり、日本国内の調査ではこれよりも低い有病率(1~2%程度)と報告されている場合もあります。 日本では、精神的な不調が「性格の問題」や「努力不足」と誤解されやすく、医療機関の受診率が低い傾向にあることから、実際の患者数は統計よりも高くなる可能性が考えられます3。
*2 不安症とは、日常生活に支障をきたすほどの強い不安や恐怖感によって心身に影響が出る疾患の総称。「社交不安障害以外に「全般性不安障害」や「パニック障害」などがある。
*3 社交不安症の疫学 その概念の変遷と歴史
社交不安障害(SAD)の原因
社交不安障害の原因はまだ完全には解明されていませんが、以下のような要因が関係して発症すると考えられています。
脳内の神経伝達物質の減少
脳内で働く神経伝達物質(神経細胞間で情報をやり取りする物質)のひとつに「セロトニン」があります。セロトニンは、不安や緊張の調整に深く関わり、「幸せホルモン」とも呼ばれています。自律神経のバランスを整える働きがあり、その量が減少すると精神的に不安定になり、不安を感じやすくなるといわれています。
セロトニンの減少には、ストレスや睡眠不足、不規則な生活習慣などが関係していると考えられています。
遺伝
社交不安障害をはじめとする不安症は、家族に同じような症状を持つ人がいる場合に発症することが多く、遺伝が影響していると考えられています。
不安症全体で見ると、遺伝が約2~4割、環境が約6~8割程度と考えられており、養育者との関係性や家庭環境も発症に関わるといわれています。
過去の体験
人前での失敗や恥ずかしい思いをした経験が心に強く残っていると、似たような状況でその記憶がよみがえり、強い不安や緊張を感じるようになることがあります。「人前に出ること=危険なこと」という認識に陥りやすくなり、社交の場を避けるようになるケースもあります。
社交不安障害(SAD)の症状
社交不安障害を発症すると、人から注目を浴びる状況で、強い不安や緊張、恐怖を感じるようになります。また、これに伴い、自律神経の働きが乱れてさまざまな身体症状が現れます。
多くの患者さんは、「こんなに不安を感じるのはおかしい」と頭では分かっていても、恐怖感を抑えることができず、強い苦痛を感じています。
このような状態が続くと、「また症状が出たらどうしよう」という不安(予期不安)を生じるようになり、人前に出ることや、特定の行動を避けるようになり(回避行動)、社会的な場面から次第に距離を取るようになります。さらに症状が進むと、特に緊張する場面だけでなく、ごく日常的な状況でも不安や身体症状が現れるようになり、仕事や学校などの社会生活全体に大きな支障をきたします。
≪おもな身体症状(自律神経症状)≫
- 顔が赤くなる
- 冷や汗をかく
- 動悸(どうき)
- 体のこわばり
- 声の震え・出にくさ
- 手足の震え
- 頭の中が真っ白になる
- 気が遠くなる
- めまい
- 吐き気・腹痛
- トイレが近くなる
- 口が乾く
- 呼吸がしにくい など
社交不安障害(SAD)の診断
問診では、医師が患者さんの症状やお困りのことを詳しくお伺いします。
息苦しさ(呼吸困難)や手足の震えといった症状は、心臓や甲状腺などの身体的な病気でも起こることがあるため、必要に応じて血液検査やX線検査などを行い、他の疾患の可能性を確認します。また、社交不安障害と症状が似ているうつ病、適応障害、パニック障害などの精神疾患との鑑別も重要です。
【社交不安障害の基本的な診断基準】
他者から注目される場面や、人とかかわる場面に対して強い不安や恐怖を感じる状態が6か月以上続き、その結果として、社交場面を避けるようになる、もしくは強い苦痛に耐えて日常生活や社会活動に支障をきたしている場合
社交不安障害(SAD)の治療
社交不安障害の改善には薬物療法と精神療法があり、両方を組み合わせて行うこともあります。
精神療法
社交不安障害は、患者さんの性格やものの考え方、ストレスへの対処方法などが大きく関係するため、医師やカウンセラーとの対話(カウンセリング)を通じて、不安を引き起こす考え方の癖や思い込みを見直していくことが大切です。カウンセリングを重ね、不安になりやすい思考パターンを少しずつ変えていくことで、自信を取り戻し、気持ちを楽にする効果が期待できます。
また、段階的に不安や恐怖を引き起こす状況に挑戦していく「暴露療法(エクスポージャー)」などのトレーニングも有効です。不安を避けずに向き合い、慣れていくことで回避行動を減らし、不安をうまくコントロールする方法を身につけることが可能です。
当院では、臨床心理士・公認心理師が在籍しており、医師と相談の上、それぞれの患者さんの状態に合わせて無理のないペースでカウンセリング・治療を行っています。
カウンセリングの料金など詳細については、以下のページをご覧ください
薬物療法
社交不安障害の治療では、必要に応じて以下のような薬剤の内服を行います。
当院では、薬の使用は必要最小限に留めておりますが、服用について不安がある方はお気軽にご相談ください。
SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
セロトニンの再取り込みを抑えることで、脳内のセロトニン濃度を高める作用があり、不安や緊張などの症状をコントロールする効果が期待できます。抗うつ剤として知られているSSRIですが、依存性が低く、安全性が高いとされているため、社交不安障害の治療にも多く用いられています。
ただし、効果が出るまでには2~8週間ほどかかる場合があり、継続的な服用が必要です。
抗不安薬(ベンゾジアゼピン系)
脳の中にある扁桃体(へんとうたい)*4の働きを抑え、不安感を和らげる薬です。
服用することで、不安感が和らぎ、動悸や息苦しさ(過呼吸)、震えなどの身体症状を短時間で抑える効果が期待できます。即効性があるため、症状が強く出た時に用いられますが、依存性のリスクがあるため、長期間の服用は控える必要があります。
*4 脳の側頭葉の内側にあるアーモンド形の器官。「感情の中枢」と呼ばれ、情動や感情の処理、記憶形成などに重要な役割を果たし、恐怖や不安といったネガティブな感情にも関与することが知られている。
漢方薬
薬の副作用が心配な方や、自然な方法で不安を和らげたい方には、漢方薬を用いることもあります。漢方薬は、不安や緊張、イライラの軽減などを目的として使われることがあります。
日常生活での対処方法
社交不安障害による身体症状は、不安や緊張により自律神経のバランスが乱れることで生じます。
特に、社交不安障害の方は交感神経が過剰に働きやすいといわれているため、日常生活の中でも以下のような対策を行い、自律神経を整える習慣を意識することが、症状の緩和に役立ちます。
日々のちょっとした工夫が、社交不安障害の症状を和らげる一歩になります。ご自身で無理なくできることから取り入れてみましょう。
規則正しい生活を心がける
毎日決まった時間に食事をとり、起床・就寝時間を一定に保つことで、生活のリズムが整い、自律神経の安定に繋がります。バランスの良い食事を心がけ、早寝早起きを意識することも大切です。
適度な運動
ウォーキングやヨガなどの軽い運動は、脳内のセロトニンの分泌を促し、心を落ち着かせる効果が期待できます。運動をすることで気分転換にもなり、前向きな気持ちになることができます。
リラックス方法をもつ
交感神経の高ぶりを抑えるためには、意識的に休む時間を作ることが重要です。
ご自身がリラックスできる時間をとることで、脳内の扁桃体の過剰な反応を鎮め、副交感神経を優位にする働きが期待できます。
- ゆっくりお風呂に浸かる
- 好きな趣味に没頭する
- 自然の中を散歩する
- 瞑想や深呼吸をする
- 好きな音楽を聴く
カフェインの摂取量を減らす
コーヒーや緑茶などに含まれるカフェインは交感神経を刺激し、不安や緊張を高める可能性があります。一日の摂取量をできるだけ減らし、ハーブティーや麦茶などのノンカフェインのドリンクを取り入れてみるのも一つの方法です。お茶の時間はリラックスのための大切な時間ですが、飲み物の種類を工夫することでさらに効果が高まります。
よくある質問
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若い世代の発症が多いのはなぜですか?
学童期から思春期は、自意識が芽生え、他人との違いに気付きやすくなる時期です。
このような心の成長に伴い、人の目を気にするようになることが発症に大きく影響していると考えられています。また、この時期は、学校での発表やスピーチなど、人前に立つ機会が増える時期でもあります。一度でもうまくいかない経験をすると、「恥ずかしい」「また失敗するのでは」といったネガティブな感情が強く残り、過剰に意識することで、不安や恐怖がさらに強まるという悪循環に陥りやすいことも要因のひとつと考えられます。 -
家族が社交不安障害と診断されました。どのように対応したら良いでしょうか?
社交不安障害の患者さんは、ご家庭ではリラックスして過ごしていることが多く、ご家族がその苦しみに気付きにくい傾向があります。患者さんご本人も性格によるものと思い込み、我慢をしていることが多く、悩みを打ち明けられずに生きづらさを感じている場合もあります。
ご家族としては、まず社交不安障害という病気への理解を深めることが大切です。
ご本人が不安や悩みを打ち明けた時は否定せず、まずは受け止めて話を聞くことが大きな支えになります。また、患者さんが思うように行動できない時でも、強く促したり、過度に干渉したりせず、ご本人のペースを尊重しましょう。温かく見守りながら、少しずつ社会との距離を縮められるようサポートしていくことが、患者さんの心の支えになり、症状の緩和や改善に繋がります。
院長からのひと言
社交不安障害は、自分の力だけで乗り越えるのが難しい病気です。
症状を改善するためには、専門的な治療やサポートが必要になります。
不安や緊張を感じることは、誰にでもある自然な反応です。治療を受けることは恥ずかしいことではありません。大切なのは、勇気を出して一歩踏み出すこと。それが回復への第一歩です。
症状の改善には、時間がかかる場合もありますが、焦る必要はありません。ご自身のペースで少しずつ「できること」を増やしていきましょう。
当院では一人ひとりの患者さんの気持ちに寄り添いながら、それぞれの方に合わせた治療を行っています。強い不安や緊張にお悩みの方は、どうかひとりで抱え込まず、私たちにご相談ください。