認知症・周辺症状

認知症とは?

認知症とは、脳の神経細胞の働きが低下し、記憶力・判断力などの認知機能が徐々に衰えていく状態を指します。加齢に伴う「もの忘れ」とは異なり、何らかの病気や障害が原因で発症し、脳の神経細胞が破壊されることで情報処理能力が失われ、日常生活や社会生活に大きな支障をきたすのが特徴です。

認知症は、進行性の疾患であり、完治させることは難しいですが、早期に適切な治療を行うことで進行を緩やかにし、自立した生活を送る期間を延ばすことは可能です。現在の医学では、一度壊れた神経細胞を元に戻す方法は見つかっていませんが、早期発見・早期治療によって患者さんの生活の質を維持できる可能性が高まります。

「最近、もの忘れが増えた」「今までできたことができなくなった」など、気になる症状が現れた時は、どうか見逃さず、お早めに当院へご相談ください。

認知症セルフチェック

以下の項目は、認知症の初期にみられる主な症状です。

1つでも当てはまり、生活に支障が出ていると感じる場合には、できるだけ早くご相談ください。

  • 最近の出来事を思い出せない
  • 約束の日にちや時間、場所を間違える
  • 慣れた場所でも道に迷う
  • 忘れ物や物をなくすことが増えた
  • 同じ話を何度も繰り返す
  • 場所や時間が分からなくなることがある
  • 会話の途中で言いたい言葉が出てこないことがある
  • 簡単な計算や簡単な作業ができない
  • 身だしなみに気を使わなくなった
  • やり慣れた作業でもミスするようになった
  • イライラしやすく、怒りっぽくなった
  • 周囲の人との関わりを避けるようになった
  • 好きな事や、趣味などへの関心が薄れた

国内の認知症の患者数と有病率

認知症は、中高年以降に発症が増え、年齢とともに有病率も上昇するのが特徴で、高齢化の進む日本では、認知症の患者数は年々、増加傾向にあります。

厚生労働省が2022年に実施した調査*1によると、65歳以上の高齢者における認知症の患者数は約443万人に上り、高齢者全体の12.3%を占めています。

2012年に実施した前回の調査結果と比較すると、認知症の高齢者数は約20万人減少した一方、認知症予備軍と呼ばれる「軽度認知障害(MCI)*2」に該当する人は約559万人と大幅に増加し、高齢者の15.5%を占める高い割合になっています。これらの結果から、認知症の患者数は今後も増加が続くことが予想され、2040年には584.2万人に達すると推測されています。

*1厚生労働省 「認知症および軽度認知障害(MCI)の高齢者数と有病率の将来推計」

*2記憶力や認知機能に軽い障害が認められるものの、日常生活に大きな支障がない状態。進行すると将来、認知症になる可能性が高いと考えられているが、早期の対応で認知機能が回復するケースもあるため、早期の診断と治療が望まれる。

認知症の主な種類(四大認知症)

認知症の多くは、中枢神経の変性による疾患*3や脳血管の障害などが原因で発症します。なかでも、以下の4つの疾患が認知症全体の9割を占めており、「四大認知症」と呼ばれています。

*3いわゆる中枢神経系変性疾患で、脳や脊髄などの神経細胞が失われることでもの忘れや運動障害などを引き起こす病気の総称。

アルツハイマー型認知症

「アミロイドβ」「リン酸タウ」などの異常なタンパク質が脳に蓄積して発症する認知症。脳の神経細胞が衰えて、脳全体が萎縮するのが特徴。記憶を司る脳の「海馬」に支障をきたすことで、もの忘れなどの記憶障害が発症早期から現れる。

認知症の中で発症数が最も多く、全体の6割以上を占めている。

レビー小体型認知症

「レビー小体」と呼ばれる異常なタンパク質が脳の大脳皮質に蓄積することで発症する認知症。

記憶障害に加え、幻視(実際にはないものが見える)、パーキンソン病に似た運動障害(手足のふるえ、動作や表情がぎこちないなど)、睡眠時の異常行動が見られるのが特徴。

症状の変動が大きく、診断が難しい場合がある。

前頭側頭型認知症

「タウ蛋白」「TDP-43」という異常なタンパク質が脳に蓄積し、前頭葉や側頭葉が萎縮することで発症する認知症。人格、社会性、言語を司る前頭葉と、記憶、聴覚、言語を司る側頭葉が正常に機能しなくなることで、社会性の欠如、自分の言動の抑制が効かない、感情が鈍くなる(感情の鈍麻)といった人格や行動の変化が目立つのが特徴。比較的若い年代に発症することもある。

血管性認知症

脳梗塞(脳の血管が詰まる)や脳出血(脳の血管が破れる)などの脳血管障害により、脳への血流が途絶えることで発症する認知症。脳に酸素や栄養が届かなくなり、認知機能の低下を引き起こすのが特徴で、発症部位によって症状が異なり、段階的に進行することが多いのが特徴。

アルツハイマー型認知症に次いで2番目に発症数が多い。

※その他、内分泌疾患、感染症、外傷性疾患、腫瘍、髄液循環障害、中毒、栄養障害などによって認知機能の低下を生じることがあります。

認知症の2つの症状

認知症には、脳の機能低下によって起こる「中核症状」と、環境や心理的要因によって起こる「周辺症状(BPSD)」があり、病気の進行とともに、これらの症状が重なり、生活に支障をきたすようになります。

中核症状

脳の神経細胞が損傷することで、直接的に起こる症状です。多くの認知症患者さんに共通して現れるものですが、症状や現れ方、重症度は病気のタイプによって異なります。

記憶障害

新しいことが覚えられなくなり、過去の出来事を忘れてしまう状態。

見当識障害

「日付が分からない」「自分のいる場所が分からない」など、時間や場所、人物の認識が難しくなる状態。

複雑性注意

「テレビを見ながら会話をする」など、複数の作業を同時に行うことが困難になり、注意が散漫になる状態。料理や車の運転など、これまで当たり前に行っていた作業や行動ができなくなったり、失敗したりするようになる。

遂行機能障害

目標を設定して計画的に実行するなど、効率的に行動する力が低下した状態。仕事や家事の段取りが悪くなり、失敗が増えたり、時間がかかったりするようになる。

言語障害(失語)

言葉の理解や表現が難しくなる状態。(失語:しつご)

言いたいことが出てこなくなり、頭の中にあることを正確に表現できなくなる。

知覚・運動の障害(失認・失行)

物事を正しく認識し、理解が難しくなる状態。目で見ているものが何か分からない(失認:しつにん)、どのようにすればよいか分からない(失行:しっこう)といった症状により、着替えや食事などの日常的な動作ができなくなる。

社会的認知障害

相手の気持ちや状況を理解する能力が低下した状態。社会性や協調性が失われ、周囲への配慮や共感などができなくなり、周囲に対して無礼な言動をとるようになる。

周辺症状(BPSD)

中核症状に加え、環境や心理的ストレスなどがきっかけで現れる行動もしくは心理症状です。

生活環境、人間関係、身体状況などのさまざまな要因が重なって生じるものであり、個人差が大きく、介護するご家族の負担を増やす要因になることも少なくありませんが、周囲の理解とサポートが重要です。

  • 不安:一人でいることを嫌がる、寂しがる
  • うつ状態:気分が落ち込み、興味や意欲がなくなる
  • 暴言・暴力:イライラして怒りっぽくなる、大声を出したり、暴れたりする
  • 幻視:実際にはないものが見えると主張する
  • もの盗られ妄想:お金や物が見当たらないと、誰かに盗られたと思い込む
  • 徘徊:目的を忘れて外出し、家に帰れなくなる

認知症の治療

現在、認知症を完全に治せる薬はありませんが、症状の進行を遅らせる治療や、認知症に伴って生じる周辺症状を和らげる治療は可能です。

また、原因によっては認知機能の回復が見込めるケースもあります。*6

*6脳腫瘍や正常圧水頭症によって生じる認知症は、脳の外科手術で治る場合がある。また、甲状腺機能低下症やビタミン欠乏症などによる認知力の低下も、ホルモンやビタミンを補うことで改善するケースがある。

薬物療法

中核症状の進行を抑えるための薬と精神症状などの周辺症状(BPSD)を和らげるための薬があり、患者さんの病気や症状にあわせ、組み合わせて使用します。当院では、薬の使用は必要最小限に抑えておりますが、薬の服用について不安がある方は遠慮なくご相談ください。

中核症状に対する薬剤(抗認知症薬)

「アセチルコリンエステラーゼ阻害薬」と「NMDA受容体拮抗剤」があります。

作用の仕方はそれぞれ異なりますが、どちらも脳内で情報を伝える神経細胞に働きかける薬であり、記憶障害や見当識障害などの中核症状を抑え、病気の進行を遅らせる効果が期待できます。

現在、アルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症に保険適用されています。

周辺症状に処方する薬剤

不安、抑うつ、焦り、幻覚、不眠などが強い場合には、抗不安薬、抗うつ薬、睡眠薬、漢方薬など、を処方することがあります。

また、脳血管性認知症では、症状の悪化に繋がる脳血管障害の再発を防ぐため、高血圧や糖尿病、心疾患など病状をコントロールする治療が必要です。

非薬物療法

薬に頼らず、さまざまな活動を通じて脳を刺激し、残された能力を活性化させる治療です。

患者さんご自身が楽しく取り組める活動を選ぶことで、脳の活性化を図るほか、自分らしさを取り戻し、気持ちを落ち着かせる効果も期待できるなど、患者さんの生活の質を高めることも可能です。

≪主な非薬物療法の例≫
  • 音楽療法:歌や楽器演奏を通し、心身を癒し、感情を引き出す
  • 運動療法:体操、散歩などの運動で、身体機能の維持と脳の活性化を図る
  • アートセラピー:絵画、彫刻、粘土細工などの創作活動で集中力を高め、脳の活性化を図る
  • 園芸療法:植物と触れ合うことで、五感を刺激し、心身の機能維持・向上を図る
  • アニマルセラピー:動物との交流により、心身を癒してストレスを軽減し、活動性を高める
  • 脳トレ:クイズ、計算、パズル、ゲームなどを通して認知機能の維持を目指す
  • 回想法:昔の写真などを見て思い出を語ることで脳を活性化し、精神的な安定を図る 

認知症患者のご家族の方へ

認知症の介護は長期に及ぶことも少なくありません。認知症への理解を深め、以下のようなことに気を付けて生活を送るようにしましょう。

活動の機会を増やす

できるだけ病気の進行を遅らせるためには、日常的に脳に刺激を与えることが大切です。

地域の行事への参加や軽い家事なども脳への良い刺激になります。家の中にこもらず、活動的に過ごす時間を意識的に増やしましょう。

余裕をもって見守る

失敗してしまった時や患者さんが混乱している時は、声を荒げたり、責めたりせず、不安や戸惑いを感じている患者さんの気持ちを受け止め、安心感を与える対応を心がけましょう。

患者さんの言葉に耳を傾け、優しい口調で話すなど、落ち着いて接することが大切です。

適切なサポートを活用する

ご家族だけで解決しようとせず、地域包括支援センターやケアマネージャー、医療機関、介護施設などと連携して介護の負担を軽減しましょう。また、地域のボランティアや認知症サポーターによる支援の輪も広がっています。介護を続けるためにも、ご家族の心身の健康を守ることは欠かせません。積極的にサポートを活用し、ご家族がリラックスできる時間を意識してつくることも大切です。

よくある質問

  • 加齢による単なるもの忘れと、認知症の違いはありますか?

    加齢による生理的なもの忘れの場合、「朝ごはんに食べたものが思い出せない」というように、記憶の一部が思い出せなくなるものであり、ヒントがあれば思い出せることが多いです。
    一方、認知症の場合は「朝ごはんを食べたこと自体を覚えていない」という具合に、すべての記憶(エピソード記憶)が失われてしまうのが大きな違いであり、進行するともの忘れをしているという自覚自体も失われていくのが特徴です。

院長からのひと言 

認知症と診断された方は、どなたでも大きな戸惑いや不安を感じるものです。

当院では、病気の進行を抑える治療はもちろん、患者さんやご家族のお気持ちに寄り添い、幅広い支援を心がけております。

超高齢化社会といわれる日本では、誰もが認知症になる可能性があります。

異変にいち早く気付き、速やかに対応することで、今後の生活に向けた準備も余裕を持って行えるだけでなく、介護保険などの公的なサポートも受けられるようになり、患者さんとそのご家族の負担を軽減することが可能です。気になる症状が現れた時は、早期にご相談ください。

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