適応障害

適応障害とは?

適応障害とは、職場や学校など、特定の環境や状況にうまく適応できず、精神的または身体的な症状が現れる疾患です。強いストレスが原因で発症するストレス関連障害の一つであり、環境の変化や仕事や勉強のプレッシャー、人間関係におけるストレスなどを引き金に発症することが多いといわれています。

適応障害は、原因となるストレスがはっきりしているのが特徴で、心身症状が強く、仕事や学校、家庭などの日常生活に支障をきたす場合には治療が必要になります。

うつ病とは異なり、適応障害は、原因となるストレスがなくなれば速やかに改善すると考えられていますが、ストレス要因が長く続くと、適応障害による症状も引き続き持続し、慢性化することでうつ病などに移行する可能性があるため、早期に適切な治療を行うことが大切です。

適応障害のセルフチェック

  • 発症の3か月前以内に強いストレスを受けた
  • 憂鬱な気分が続く
  • 不安感が強い
  • 緊張していて気持ちが落ち着かない
  • やる気が起きない
  • 会社や学校に行くのがつらい
  • 眠れない、または寝すぎてしまう
  • 食欲がない、または食べ過ぎてしまう
  • 肩こりや頭痛など、原因不明の体調不良が続く
  • 自分がダメな人間だと思う

適応障害の発症率

適応障害は、精神疾患の中でも比較的発症しやすい疾患であり、精神科を受診する患者の5~20%が適応障害と診断されるともいわれています。アメリカ精神医学会のDSM-IV-TR*1(2000年版)によると、適応障害の有病率は全人口の2~8%程度に認められ、男性に比べ、女性の発症が2倍に上ると報告されています。どの年代でも発症する可能性はありますが、20~50代の働く世代の発症が多い傾向があります。

近年、日本国内における患者数も増加しており、厚生労働省が行った調査*2によると2008年から2017年の10年間で患者数が約2.5倍に増加しています。

諸外国では、離婚などの家庭問題、経済問題、環境の変化などが主な発症要因ですが、日本の場合、職場の業務や対人関係のストレスが原因で出社困難となるケースが多いことが指摘されています。

*1 Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders(精神障害の診断と統計の手引き)の略。アメリカ精神医学会の定めた精神障害に関する診断基準であり、国際的な基準として使用されている。

*2 厚生労働省 日本における「適応障害」患者数の増加

適応障害の原因

適応障害を発症する原因のほとんどがストレスによるものです。

ただし、ストレスの性質や強度はさまざまで、人によって受けるストレスの程度は異なります。

ストレス耐性には個人差があり、自分にとってはそれほど気にならない日常的な出来事であっても、他の人にとっては大きなストレスになり、日常生活に大きな支障をきたすことがあります。

また、必ずしも悪い出来事やつらい出来事だけでなく、昇進や結婚、出産といった嬉しい出来事であっても、強い緊張を強いられ、大きなストレスを感じることで発症するケースもあります。

ご本人が置かれた状況に適応しようと努力してもうまく乗り越えられず、ストレスの内容が自分の気持ちと合わない状況が続くことで発症しやすくなると考えられています。

≪適応障害発症のきっかけとなる主な要因≫

職場のストレス

長時間労働、パワーハラスメント、セクシャルハラスメント、同僚や上司との不仲、仕事上のミス、責任の重い仕事など

家庭問題

夫婦関係、育児ストレス、介護問題、家族の不仲、嫁姑問題、家族の病気、結婚問題など

学校での悩み

いじめ、友人トラブル、先生との関係、クラス替え、受験のプレッシャーなど

ライフイベント(生活環境の変化)

進学、転校、転職、転勤、職場の部署移動、昇進、引っ越し、結婚、妊娠、出産、離婚など

その他

本人または大切な人の深刻な病気、睡眠不足、経済問題、自然災害、失恋など

適応障害の症状

適応障害によって生じる症状は身体的なものから精神的なものまで多岐にわたり、大きく以下の3つに分けられます。症状の程度や現れ方には個人差がありますが、精神症状を生じる前に身体の警告サインとして身体症状が出るケースが多いといわれています。

これらの症状は、ストレスの原因に直面している時や、それを思い出した時に特に強く表れる傾向があり、ストレスから離れると徐々に症状が軽減するのが特徴です。

精神症状

不安感、恐怖感、焦燥感、過度の緊張、神経過敏、怒り、焦り、イライラ、混乱、赤ちゃん返り(子どもの場合)、気持ちが沈む、涙もろくなる、無気力、憂鬱、喪失感、絶望感、注意力の低下など

身体症状

頭痛、腹痛、めまい、動悸、倦怠感、吐き気、腰背部痛、発熱、起床困難、過呼吸、不眠、過眠、食欲不振、過食、下痢、便秘、しびれ、難聴、耳鳴り、肩こり、喉の異物感、胸の圧迫感、息苦しさ、おねしょ、指しゃぶり(子どもの場合)など

問題行動

けんか、危険運転、勤務怠慢(遅刻、無断欠勤など)、過剰飲酒、暴飲暴食、ギャンブル依存症、不登校、器物破損、引きこもり、薬物乱用、希死念慮、自殺企図など

適応障害の診断

アメリカ精神医学会が作成した診断基準(DSM-5・2013年版)では、「ストレス因子が生じてから3か月以内に症状が出現し、ストレス因子の消失後6か月以内に症状が消失するもの」と定義されています。

適応障害の診断は、医師の問診によって行います。初診時には、発症時期、ストレスの原因となる出来事があったか、日常生活への影響の程度など、詳しいお話を伺いするとともに、心身の健康状態を調べるための血液検査や心理検査を行います。

適応障害の場合、他の精神疾患やストレス関連障害の可能性を除外した上で、症状とストレスの因果関係が認められること、さらに症状がどのように経過し、環境によって変化することがあるかが重要な診断材料になります。

≪適応障害の基本的な診断基準≫

  • ストレスの原因が特定でき、ストレスが生じてから3か月以内に発症している
  • ストレスによって精神的または身体的に強い苦痛を感じている、または問題行動を起こすことで日常生活に支障をきたしている
  • ストレスから離れると症状が改善し、ストレスがなくなれば6か月以内に症状が消失する
  • 親しい人との死別によるものではなく、他の精神障害や身体的疾患がない

適応障害の治療

適応障害の治療はストレスの軽減と、心の回復を目的に、以下のような方法を行います。

環境の調整

まずは十分な休養を取り、ストレスを減らすことが治療の基本です。

心を落ち着かせるためには、根本的にストレスを取り除くことが最善の方法ですが、完全に離れられない場合には、一時的に休職や休学などで距離を置くことでストレスを軽減します。

また、職場や学校に問題がある場合には、労働時間や生活環境の見直しなどの環境調整により、症状が改善することもあります。

心理療法

適応障害は、患者様の性格や考え方、ストレスへの対処方法が大きく影響するため、ストレスへの適応力を高める心理療法が有効となる場合があります。当院には臨床心理士・公認心理師が在籍しており、医師や患者様と相談の上、お一人お一人の状態に合わせてカウンセリング・治療を進めてまいります。

カウンセリングの料金など詳細については、以下のページをご覧ください。
「心理支援」ページ

薬物療法

不眠や不安などの症状が強い場合には、補助的な役割として睡眠薬や抗不安薬、抗うつ薬などを処方することがあります。ただし、薬物療法はあくまでもつらい症状を和らげるための対症療法であり、根本的な治療にはならないため、必要最低限の使用に抑え、環境調整や精神療法を並行して行うことが重要です。

日常生活での対処方法

適応障害の回復には、日常生活の見直しやセルフケアも重要になります。

以下のような小さな工夫を積み重ねていくことで、ストレスを軽減することができ、発症や再発の予防にも有効です。

  • 睡眠、食事、運動など、規則正しい生活を心がける
  • 趣味や運動、深呼吸など、意識的にリラックスする時間を作る
  • つらい時は一人で抱え込まず、家族や友人、カウンセラーなど、信頼できる人に相談する
  • ストレスの原因を整理し、無理な環境に身を置かないなどの対策を考える

よくある質問

  • 適応障害とうつ病との違いは何ですか?

    適応障害は、うつ病と症状が似ていますが、同じ病態ではなく、原因や治療法も異なります。
    うつ病は、脳の機能低下や神経伝達物質の異常によって起こる疾患であり、ストレスがなくなっても症状が続くのに対し、適応障害は、ストレスから離れることで症状が軽快し、ストレスが終結すれば症状も速やかに消失します。
    また、適応障害では、うつ病治療で用いられる抗うつ剤は、対症療法として一時的に使用されることが多く、環境調整やカウンセリングによるストレス要因の軽減が治療の基本になります。
    ただし、適応障害は、ストレスが長期間続くと慢性化し、うつ病へ移行することがあるため注意が必要です。実際、適応障害と診断された方が、その後うつ病やパニック障害を発症するケースもあり、深刻な精神疾患の前段階と考えられているため、早期の治療が重要です。

  • 適応障害は自然に治ることがありますか?

    ストレス要因がなくなることで自然に回復するケースもありますが、放置していると慢性化してしまう可能性があります。特に不眠や不安、抑うつなどの症状があると冷静な判断も難しく、無理をして我慢を続けていると、回復に余計に時間がかかってしまうこともあります。
    早期の場合、環境調整だけで症状が改善することもあります。ストレスによる症状が現れた時は放置せず、早期に受診されることをおすすめします。

  • 適応障害は再発することがありますか?

    適応障害は、ストレスを回避し、適切な治療を行うことで、比較的早期に回復するケースが多いです。ただし、休職して症状が改善しても、すぐに仕事に復帰すると再発してしまう可能性もあります。復職後のストレスについて予測し、復職前にストレスの受け止め方や対処法を身につけておくことが重要です。

  • 未成年でも受診できますか?受診には予約が必要ですか?

    未成年の方も受診いただけますので、お気軽にご相談ください。
    保護者の同伴や同意書は必要ありません。当院は日曜も診療を行っていますので、お仕事や学校がお休みの日にご来院いただくことも可能です。
    また、患者様一人ひとりとじっくりと向き合うため、初診・再診とも予約制となっております。
    予約に空きがあれば、当日の受診も可能です。受診を希望される方は、インターネットまたはお電話でご予約ください。

院長からのひと言 

適応障害は、誰にでも発症する可能性がある病気です。

目まぐるしく変化する情報社会や競争の激しい社会の中で、子どもから大人まで、誰もが多様なストレスにさらされており、さらなる患者数の増加も予想されます。

努力することは素晴らしいですが、無理をしすぎると上手くいかないこともあり、限界を超えてしまうこともあります。ストレス耐性には個人差があり、一見些細に見える出来事でも、患者様の体調や年齢、これまでの経験などによって、思いのほか強いストレスを感じることがあります。

当院では、患者様一人ひとりの価値観を尊重し、医師やカウンセラーをはじめとする専門スタッフが心身の症状を緩和するとともに、ストレスにうまく対処するための適応力を高め、社会生活の中で活かせるようサポートいたします。

お困りの際は、お気軽にご相談ください。

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