動悸、息がしにくい、過呼吸
動悸(どうき)は、普段は意識しない心臓の鼓動を強く感じる状態であり、急に発症すると、大きな不安に襲われることも少なくありません。また、呼吸が浅く、息を吸いにくい時や、呼吸が速くなる過呼吸の症状も、自分の意思でうまくコントロールできなくなるため、焦りや不安を感じやすくなります。
これらの症状は、単独で現れることもあれば、同時に出ることもあります。
突然発症するため、「命に関わる病気では?」と心配になる方も多いですが、こうした症状は、身体的な病気だけでなく、不安やストレス、緊張などの精神的な要因からも起こることがあります。
心や体からのSOSサインを見過ごしてしまうと、症状が慢性化し、仕事や家庭などの日常生活に影響が出ることもあります。症状を悪化させないためには、早期に原因を見つけて、適切な対策を取ることが大切です。
よくある症状セルフチェック
以下のような項目に当てはまり、症状が続いている場合は放置せずにご相談ください。
特に複数の項目に当てはまる場合には、早期の受診をおすすめします。
- 急に心臓がドキドキ・バクバクして強く打つのを感じることがある
- 息が吸いにくい、息苦しいと感じることがある
- 呼吸が速くなり、うまくコントロールできない時がある
- 手足がしびれる、めまい、冷や汗などの症状を伴うことがある
- 症状が繰り返し起こる、または理由が思い当たらない
- 不安や緊張がきっかけで症状が強くなることがある
動悸、息苦しさ、過呼吸が起こる主な原因
動悸や息苦しさ、過呼吸が起こる原因にはさまざまなものがあります。
症状が続く場合は放置せずに医療機関を受診し、早めに状態を調べることが重要です。
精神的なストレスや不安
仕事や家庭の問題、人間関係の悩みなどで不安や緊張などが続くと、自律神経のバランスが乱れ、交感神経が過剰に働きやすくなります。その結果、心拍数や脈が上がり、動悸や息苦しさを感じやすくなります。この状態が続くと、うつ病やパニック障害などの不安障害につながることもあります。
精神疾患
動悸や息苦しさは、不安障害やうつ病、適応障害などの精神疾患でもよく見られる症状です。
特にパニック障害では、突然の激しい動悸や息苦しさ、過呼吸などを伴う「パニック発作」が起こることがあります。
身体的な疾患
心臓の病気(不整脈や狭心症など)、呼吸器の病気(喘息や慢性閉塞性肺疾患など)、または貧血、更年期障害、甲状腺機能の異常(バセドウ病)といった体の疾患が原因で、動悸や息苦しさを引き起こすこともあります。胸の痛みやめまい、手足の震えなど、他の症状を伴う場合は、早期の受診が必要です。
治療薬の副作用
高血圧や狭心症、喘息の薬など、一部の治療薬の副作用として動悸が現れることがあります。薬の服用を始めてから動悸などの症状が現れた場合には、早期に医師に相談しましょう。
たばこ、アルコール、カフェインなどの嗜好品
たばこに含まれるニコチンや、コーヒー、エナジードリンクなどに含まれるカフェインは、心臓や自律神経を刺激し、動悸や息苦しさを引き起こすことがあります。また、アルコールを過剰に摂取すると睡眠の質が低下して症状が悪化することもあるため、摂取量には十分注意が必要です。
考えられる主な精神疾患
心臓や肺などの身体的な異常がないにもかかわらず、動悸や息苦しさ、過呼吸といった症状が続く場合、精神的なストレスや不安などが関係していることが多く、以下のような心の病気の可能性が考えられます。症状の程度や現れ方は人それぞれ異なるため、症状が長引き、生活に支障が出ている場合には早めにご相談ください。
適応障害
仕事や学校、人間関係など、特定のストレス要因によって、心身にさまざまな不調が現れる病気です。気分の落ち込みや無気力などの精神症状とともに、動悸や息苦しさ、不眠、食欲不振などの身体症状も伴うことがあります。
パニック障害
不安障害のひとつで、強い不安や恐怖が突然現れ、動悸や息苦しさ、過呼吸、めまいなどの身体症状を伴う「パニック発作」を繰り返す病気です。発作自体は短時間で治まることが多いですが、再発への不安から外出を避けるなど、日常生活に支障をきたすことがあります。
広場恐怖症
不安障害のひとつで、特定の場所や状況(例:電車の中、人混み、閉鎖的な空間など)で、強い恐怖や不安を感じる状態です。居心地の悪さだけでなく、動悸や息苦しさ、過呼吸といった身体症状を伴うケースも多く、このような状況を避けようとして、日常生活に支障をきたすことがあります。
社交不安障害
不安障害のひとつで、人前で注目を浴びる場面で強い不安や恐怖を感じ、動悸や息苦しさ、発汗、震えなどの症状を伴う状態です。これらの症状を避けるために人との関わりを避けるようになり、日常生活や社会生活に影響が及ぶことがあります。
うつ病
気分が落ち込む、興味や意欲がなくなるといった精神的な症状に加え、動悸や不眠、倦怠感などの身体症状を伴う病気です。脳の働きやバランスの乱れが一因と考えられており、悪化すると仕事や学業、家庭などに大きな影響を及ぼします。
主な診断・治療法
動悸や息苦しさ、過呼吸などの症状がある場合、まずは正確な原因を突き止めることが大切です。当院では、まず丁寧な問診を行い、症状や発症時期、生活環境などについて詳しくお伺いします。何らかの身体的な原因が考えられる場合は、必要に応じて、血液検査などを行い、身体疾患の有無などをしっかり確認します。それらの診断結果をもとに、当院では以下のような治療を行っています。
薬物療法
過度の不安や緊張、パニックなどの症状を和らげるために、必要に応じてお薬を処方することがあります。当院では、患者さんの症状や体質に合わせて、必要最小限の薬剤を慎重に選んでいます。副作用についてなど、薬の服用に不安があれば、いつでもご相談ください。
SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
セロトニンの働きを調整し、不安や緊張を和らげる作用があります。
依存性が少なく、比較的安全性が高いことから、うつ病や適応障害、不安障害の治療などにも広く使用されています。即効性はありませんが、2~8週間ほどで症状の改善が期待できます。服用開始初期には、一時的に不安が強まる場合もありますが、多くの場合、徐々に落ち着いてきます。
抗不安薬
強い不安や緊張、動悸、息苦しさ、震えなどの身体症状をすばやく和らげる効果が期待できます。即効性が高く、短時間で効果が得られる一方、依存や耐性がつきやすいため、長期間の服用は控え、パニック発作が起きた時などに一時的に使用します。
心理療法(カウンセリング)
カウンセリングを通じて、不安や緊張、パニックを引き起こす考え方や行動のパターンを見直し、少しずつ「考え方のクセ」を変えていく治療です。自分の気持ちや行動を整理し、ストレスへの対処法を身に付けることで、動悸や息苦しさ、過呼吸といった症状が起こりにくくなる効果が期待できます。
当院には、臨床心理士、公認心理師が在籍しており、患者さんの状態に合わせて無理のないペースで治療を進めていきます。
カウンセリングの料金など詳細については、以下のページをご覧ください。
なお、症状の改善や再発予防には、医療機関で行う治療とあわせ、日常生活の見直しやセルフケアも必要不可欠です。バランスの良い食事や適度な運動、十分な睡眠、ストレスとの上手な付き合い方などを身に付けることが症状の改善につながります。
自分で行うセルフケア方法
クリニックでの治療と並行して、日常生活で実践できるセルフケアも行っていきましょう。
日々の小さな心掛けが、症状の緩和や再発予防につながります。自分のペースで無理なくできることから始めてみましょう。
生活リズムを整える
毎日同じ時間に食事をとり、適度な運動を続けることは心身の安定につながります。
急激な生活の変化や無理なダイエットは避け、できるだけ規則正しい生活を心がけましょう。
十分な休息をとる
睡眠不足は自律神経の乱れの大きな原因です。起床時間と就寝時間をなるべく一定にし、寝る前のスマートフォンやパソコンの使用は控え、質の良い睡眠をとるよう意識しましょう。
カフェイン・アルコール・たばこを控える
コーヒーやエナジードリンク、アルコール、たばこは、自律神経を刺激し、症状の悪化に繋がることがあるため、できるだけ摂取を控えましょう。完全にやめるのが難しい場合でも、摂取する量や時間帯に気を付けるだけでも体への影響を減らすことが可能です。
ストレスを溜め込まない
自分に合ったリラックス法や気分転換の方法を見つけて、日常的に実践しましょう。
好きな音楽を聴く、趣味の時間を持つ、ペットと遊ぶ、家族や友人との会話など、ささやかな事でも構いません。ご自身が楽しいと思える時間を積極的にとりましょう。また、毎日の生活の中に、アロマセラピー、マインドフルネス、瞑想などを取り入れることもおすすめです。
よくある質問
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時々動悸があります。心臓が悪いのでしょうか?
動悸や息苦しさが続くと、誰でも「心臓や肺に問題があるのでは?」と不安になるものです。
しかし、内科や循環器科で必要な検査を受けても異常が見つからない場合、ストレスなどの精神的な要因が関わっているケースが考えられます。
当院では、まず症状を詳しくお伺いし、必要に応じて内科的な検査をご案内することもあります。また、症状やご希望に応じて適切な専門科をご紹介することも可能です。「病院に行った方が良いのか分からない」「どこに相談すれば分からない」といった場合も、どうぞお気軽にご相談ください。 -
なぜ精神的なストレスで動悸や息苦しさ、過呼吸が起こるのですか?
人はストレスや不安、恐怖を感じると、脳(特に扁桃体や視床下部)が「危険」と判断し、体は非常事態に備えるモードに切り替わります。この時、脳からアドレナリンやコルチゾールなどの「ストレスホルモン」が分泌され、体を活動状態にする交感神経が活性化します。その結果、体を活動的な状態に保つために、動悸や息苦しさ、過呼吸といった症状が現れるのです。
これは「闘争・逃走反応(ファイト・オア・フライト・レスポンス:fight or flight response)」と呼ばれ、危機に直面した際に体を守る正常な働きです。通常は危険が去ると、副交感神経が働いてリラックス状態に戻りますが、ストレスが長期間続くと交感神経の緊張が持続し、不眠や疲労など、さまざまな不調を引き起こす原因になります。 -
生活習慣の改善だけでも良くなりますか?
症状が軽い場合には、食事や運動、睡眠などの生活習慣を見直すことで症状が改善することもあります。しかし、背景にパニック障害やうつ病などの精神疾患がある場合には、セルフケアだけで改善することが難しい場合があり、適切な薬物療法やカウンセリングなどが必要になります。
症状が頻繁に起こる場合や日常生活に支障をきたしている場合は、できるだけ早くご相談ください。
院長からのひと言
動悸や息苦しさ、過呼吸はとてもつらく不安になるものです。ですが、その原因が必ずしも重い病気とは限りません。当院では、患者さんお一人おひとりの症状やお気持ちに寄り添いながら、丁寧な診断と適切な治療を心がけています。
「こんなことで相談していいのかな」と迷うような小さなことでも、どうぞ遠慮なくご相談ください。
スタッフ一同、皆さんの心と体の健康をしっかりサポートしてまいります。