生理前に気持ちが不安定になる

こんな症状はありませんか?

「イライラが止まらない」
「気分が落ち込んで涙が止まらない」
「人に会いたくない」
普段は平常心で過ごせるのに、なぜか生理前になると感情が爆発してしまい、気持ちのコントロールが効かなくなるということはありませんか?
生理は、女性の体に備わった自然な現象であり、病気ではありませんが、生理前に生じる心や体の不調に悩む女性は少なくありません。これらの症状は総称して「月経前症候群(PMS)*1」と呼ばれており、生理のある女性の約8割が何らかの不調を経験するともいわれています。
*1 Premenstrual Syndromeの略。

日常生活に支障がなければ問題ありませんが、気分の落ち込みやイライラ、不安感といった精神的な症状が強く現れ、人間関係に影響が出てしまう場合や、仕事や勉強などのパフォーマンスが著しく低下するような場合は、精神科・心療内科での適切なケアや治療が必要です。

毎月やってくる生理とうまく付き合い、気分の変動を緩やかにすることができれば、あなたの心はもっと穏やかになり、より充実した日々を送れるようになるかもしれません。

生理前の不安定な心の状態にお悩みの方は、一人で悩まずに、ぜひ一度ご相談ください。

よくある症状セルフチェック

毎月、生理前に以下のような症状が現れ、生理が開始すると症状が軽くなり、生理が終わる頃に消失します。下記の項目に当てはまり、生活や人間関係に支障をきたしている場合は、早期にご相談ください。

  • 気分が落ち込む、不安になる
  • 自分の感情をコントロールできない
  • わけもなくイライラし、些細なことで怒ってしまう
  • 物事に集中できず、仕事や勉強がはかどらない、ミスが増える
  • 人と関わりたくなくなる
  • 食欲がない、または食べ過ぎてしまう
  • 眠れない、または寝過ぎてしまう
  • 腹痛や頭痛、乳房の痛み・張り、むくみなどの身体症状がある

生理前に不調が現れる背景と悪化させる要因

生理前の心の不調は、まだはっきりと解明されてはいませんが、主に女性ホルモンの急激な変動が原因と考えられています。

女性は、排卵後から生理直前にかけてエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)という2つの女性ホルモンのバランスが急激に変化します。その影響で、セロトニンやGABA(γ-アミノ酪酸)といった心の安定に関わる神経伝達物質*2の働きが低下し、イライラや不安、抑うつといった気分の変調が起こりやすくなると考えられています。

また、このような生理前に起こる気分の変動は、以下のようなさまざまな要因が複雑に関係し合い、症状が強まることがあります。

*2 脳内で神経間の情報伝達をする化学物質。セロトニンやGABAは抑制系といわれ、神経の興奮を鎮める作用がある。

慢性的なストレス

仕事や家庭、人間関係などでストレスが蓄積すると、自律神経やホルモンのバランスが崩れやすくなります。精神的な緊張や身体的な疲れが続くと気持ちに余裕がなくなり、生理前の気分の揺らぎも悪化しやすくなります。

栄養不足

偏食や無理なダイエットなど、食生活の乱れにより、セロトニンの原料といわれるトリプトファンや、合成に必要なビタミンB6、ブドウ糖などの栄養素が不足すると心が不安定になりやすくなります。

睡眠不足

睡眠は心と体を休める大切な時間です。慢性的な睡眠不足や昼夜逆転の生活など、質の良い睡眠がとれていないと、脳内のセロトニンの分泌が減り、感情のコントロールが難しくなります。

喫煙、飲酒習慣

喫煙はホルモンのバランスを乱し、生理前の不調を悪化させる可能性があります。

また、過度なアルコール摂取も、生理前の不調が重くなる傾向があると報告されています。

遺伝的要因

ホルモンの変化に対する脳の感受性には個人差があり、遺伝的な要因が関係するといわれています。母親や姉妹に同じような症状がある場合、同様の体質を受け継いでいる可能性があります。

精神疾患の既往

うつ病や不安障害などの精神疾患の経験がある方は、気分の変動に敏感な脳の特性があると考えられています。感情の波が大きくなりやすく、生理前の不調が重くなる傾向があります。

考えられる主な疾患・ケース

生理前に生じる心の不調は、ホルモン変動に関連して起こるものですが、個人差も大きく、現れる症状や重症度はそれぞれ異なります。また、一部の病気の中には、「月経前増悪(PME)*3」と呼ばれ、生理前に精神症状の悪化を招くものもあるため、それらの疾患との鑑別も必要になります。
当院では、総合的な視点から診断を行い、必要に応じて他科とも連携しながら、患者様一人ひとりに最適な対応を心がけています。
*3 Premenstrual Exacerbationの略。

月経前症候群(PMS)

生理前のホルモンバランスによる心身の不調の総称です。

生理の3~10日前くらいから現れ、生理の開始とともに軽減し、生理の終了する頃には消失するのが特徴です。PMSは、下腹部痛、乳房の張りや痛み、頭痛、むくみなどの身体症状から、イライラ、気分の落ち込みなどの精神症状を伴うものもあり、その種類は200種類以上に及ぶといわれています。

これらの症状は女性ホルモンの変化に伴って生じるものであり、下腹部痛や月経過多といった身体症状が強い場合は婦人科で治療を行いますが、精神症状を伴う場合には、精神科・心療内科で治療を行うことがあります。

月経前気分不快症候群(PMDD)*4

PMDDは、生理前に生じるPMSのなかでも、精神的な症状が強く、気分の変動が激しい状態です。生理の3~10日前くらいから気分が不安定になり、「涙が止まらない」「消えてしまいたくなる」など、うつ病に似た強い精神症状が現れるのが特徴です。

生理が開始すると症状が改善し、終了する頃には消失しますが、平常時との差が激しく、社会活動に大きな影響を及ぼすことから、うつ病や不安障害と並ぶ「抑うつ症群*5」の1つとして考えられています。PMSのなかでも重症度が高く、日常生活に支障をきたし、女性の生活の質(QOL)を大きく低下させてしまうため、精神科・心療内科で適切な治療を行い、症状をコントロールする必要があります。

*4 Premenstrual Dysphoric Disorderの略。
*5 気分の落ち込みや楽しみ・興味の喪失が長期間続き、社会生活に支障をきたす精神疾患の総称。

甲状腺機能異常(バセドウ病・橋本病など)の月経前増悪(PME)

甲状腺ホルモンは、感情や自律神経の調整に関わるホルモンであり、分泌が多すぎたり、少なすぎたりすると気分の落ち込みや不安感、イライラ、疲労感などが出やすくなります。

甲状腺機能異常は、生理前のホルモン変動と重なることで、精神的な症状が悪化することがあり、PMSやPMDDを疑って医療機関を受診したところ、甲状腺の病気が見つかったというケースもあります。

※甲状腺の異常が疑われる場合、内科や内分泌科との連携が必要です。当院では、精神症状の背景に甲状腺の関与が考えられる場合、検査や内科、内分泌科への紹介も行っています。

精神疾患の月経前増悪(PME)

うつ病や不安障害などの精神疾患は、生理前のホルモン変動によって症状が悪化することがあります。通常、これらの精神疾患は、慢性的に症状が続くのが特徴です。しかし、女性の患者さんの中には、生理前に一時的に症状が悪化する方がおり、PMSやPMDDを疑って医療機関を受診したところ、もともと患っていた精神疾患の増悪だったというケースもあります。

PMSやPMDDとPMEの正確な鑑別には、生理以外の時期に症状が持続するかを確認する必要があります。生理前に生じるうつやイライラ、不安などが特に重い場合、または生理が終わった後も症状がなくならない場合には何らかの精神疾患の増悪である可能性があります。

当院での診断と主な治療

正確な診断には、症状の種類や程度はもちろん、生理周期との関係を確認する必要があります。

ちょっとした気分の変化や体の不調は、毎日の中では見過ごされてしまいがちです。

日頃から、気分の状態や体の症状、睡眠時間、生理周期や基礎体温などを記録しておくと、ご自身のリズムを把握しやすくなり、診断や治療方針の決定にも役立ちます。

当院では、これらの記録や詳しい問診をもとに慎重に診断を行い、症状に合わせた治療をご提案します。また、診断の結果、他の診療科での検査や治療が必要になる場合は、医療機関の紹介なども行いますのでご安心ください。

薬物療法

気分の落ち込みやイライラ、不安など、中等度以上の精神症状があり、日常生活に支障をきたしている場合には、薬物による症状のコントロールが必要になります。

当院では、患者さんの症状や体質に合わせて必要最小限の薬剤を選び、副作用にも注意しながら慎重に調整していきます。

  • SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)

セロトニンの働きを調整し、不安や緊張を和らげる作用があります。
依存性が少なく、安全性が高い抗うつ薬であり、うつ病や不安障害などの治療のほか、中等度以上のPMDDによる精神症状を改善する効果も期待できます。
うつ病治療の場合、薬の効果を感じるまでに2~8週間程度かかりますが、PMDDの場合、1~3日程度と短期間で症状が軽減され、即効性も期待できるのがメリットです。
中等度のPMDDの場合、黄体期(月経前の2週間)の間だけ服用する「間欠投与」でも効果が得られますが、症状が重い場合は継続して服用する「連続投与」を検討します。
なお、服用初期に一時的に不安が強まる場合がありますが、多くの場合、徐々に落ち着きます。

  • 抗不安薬(ベンゾジアゼピン系)

強い不安や緊張、動悸、息苦しさ、震えなどの身体症状をすばやく和らげる効果が期待できます。即効性が高い一方、依存や耐性がつきやすいため、長期間の服用は避け、必要な時にのみ一時的に使用します。

  • 漢方薬

漢方薬は、軽度のうつや生理に関連する症状など、女性の不定愁訴に広く用いられています。
効果が穏やかで副作用が少ないのがメリットですが、即効性はないため、継続して服用する必要があり、SSRIと組み合わせて使用するケースもあります。
生理に関連する症状は、東洋医学的に瘀血(おけつ:血液が滞った状態)と気の異常により生じると考えられており、症状や体質(証)に合わせ、以下のような漢方薬を使用します。

  • 半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう):気持ちの落ち込み
  • 加味逍遙散(かみしょうようさん):イライラ、気持ちの落ち込み
  • 抑肝散(よくかんさん):イライラ
  • 抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ):イライラ

※その他、不眠症状がある時は睡眠薬、頭痛や腹痛には鎮痛剤など、症状を改善するための薬剤を処方することがあります。また、うつ病をはじめとする精神疾患の増悪(PME)によるものと考えられる場合、薬物療法と併せて、心理療法やカウンセリングなども検討します。

自分でできる対処法、セルフケア方法

生理に関連した症状は、ストレスや生活習慣などの影響を大きく受けているため、生活を見直し、ご自身でもセルフケアを行っていく必要があります。
当院では、薬物での治療と併せ、以下のようなセルフケアの方法のアドバイスも行っています。

適度な運動をする

適度な運動は、血流を改善し、生理前の痛みやむくみを改善する効果があるだけでなく、ストレス解消や気分転換にも効果的です。

一定のリズムで行うジョギング・ウォーキングなどの有酸素運動は、セロトニンをはじめとするさまざまなホルモンの分泌を促すといわれています。また、ヨガなども呼吸を意識しながら行うことでリラクゼーション効果も期待できます。

定期的に運動する習慣を持ち、週に2~3回程度、ご自身の体力に合わせ、無理のない範囲で行いましょう。

質の良い十分な睡眠をとる

睡眠不足はセロトニンの働きを弱め、気分の安定を妨げます。毎日の就寝・起床時間はなるべく一定にし、しっかり睡眠時間を確保することで体調を整えましょう。

一般的に6~8時間の睡眠が理想といわれていますが、必要な睡眠時間は個人差もあります。

睡眠時間は長さだけでなく、どれくらい深く眠れたかがポイントになります。

寝室の環境を整える、夕方以降、カフェインやアルコール摂取は控える、寝る前のスマホ操作をしない、寝室の温度や明るさを整えるなど、睡眠の質を高める工夫を行いましょう。

自分に合うリラックス法をもつ

瞑想や深呼吸、アロマテラピーなど、ご自身に合ったリラックス方法を取り入れてみましょう。

自分の思ったこと・感じたことを自由にノートに書き出してみるジャーナリングもおすすめです。

その他、散歩やスポーツ、音楽を聴く、映画を見る、読書をするなど、毎日の生活の中で趣味の時間や楽しい時間を意識してとり、リラックスする時間を作りましょう。

よくある質問

  • 生理が始まれば自然に良くなります。薬を使わず、セルフケアだけでも良くなりますか?

    生活習慣の見直しやセルフケアは、症状の改善には必要不可欠です。
    比較的症状が軽い場合、セルフケアだけでも症状の改善が期待できますが、生活に支障をきたすレベルの強い症状は、適切な服薬を行い、症状のコントロールをする必要があります。
    薬物療法には、漢方薬を使う方法や、生理前の2週間だけSSRIを服薬する方法など、いくつかの治療の選択肢があります。当院では、薬剤の使用は必要最低限に抑えており、患者さんのご希望も尊重した上で最適な方法をご提案いたしますので、まずはご相談ください。

  • 生理前の不調は、ピルを使ったら良くなりますか?

    PMSやPMDDの症状の改善に低用量ピルが使われることもありますが、これは婦人科での判断になります。生理前に生じる精神症状は、複数の要因が複雑に関係しているケースもあります。生活に支障をきたす強い症状がある時は、まず精神科・心療内科を受診し、正確な原因を突き止める必要があります。
    重症度の高いPMDDに関しては、精神科・心療内科での治療が推奨されていますが、必要に応じて婦人科でのホルモン療法も併用することは可能です。当院では、それぞれの患者さんのご希望を伺い、最適な治療方針をご提案いたしますので、お気軽にご相談ください。

院長からのひと言 

仕事や勉強、家事や育児に追われる日々の中で、ご自身の体調を気にかける余裕が持てず、生理前の心の不調を「仕方ないこと」として我慢している女性は少なくありません。

生理前の不調は人によって症状の出方も重さもさまざまで、周囲に理解されにくいため、ひとりでつらさを抱えてしまう方も多くいらっしゃいます。

症状の改善には薬による治療が効果的ですが、頑張りすぎないこと、そして休むことも大切な治療の一つです。少し力を抜いてリラックスすることで気持ちに余裕が生まれ、症状が和らぐケースもあります。

当院では、患者さん一人ひとりの状況に寄り添い、生理に伴う心の不調を和らげるお手伝いをしております。生理前のつらい症状でお困りのときは、我慢せずにどうぞお気軽にご相談ください。

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